107 / 167

王の帰還

 早口で訴える。 「お前…………ディディエか?」 「そうだよっ。シャルール」  名前を呼ばれて何度も頷いた。  シャルールが長い銀糸の前髪をゆっくりとした動きでかき上げる。 「そうか……」  そう言って呟く。 「この雨はお前が呼んだのか」  見上げた上空高く、旋回するように龍が飛んでいた。 「そうか……」  もう一度つぶやいて僕を見つめる。  馬が近づいてくる音にシャージュがさっと振り返った。僕もその音がする方に顔を向ける。  緊張が走った。  焼けた木々の間から馬に乗って表れたのは、フェルメだった。 「これは……」  慌てた様子で馬から飛び降りると僕の側まで駆け寄り、地面に額を擦り付けそうな勢いで頭を下げた。  長い銀糸の髪が地面に垂れて汚れるのも気にしないほどの勢いだ。 「……お探ししておりました」  フェルメはそう言って地面を見つめて肩を震わせている。  降り注ぐ雨に地面は黒く濡れていく。 「フェルメ様?」  あまりの勢いに動揺してしまう。 「名を?」  フェルメは訝しむ様にゆっくりとその顔を上げた。  濡れて張り付いた髪をシャルールが掻き揚げたことで、僕の顔はよく見えただろう。 「お前は、ディディエ?」  眉間にしわを寄せてじっと顔を見つめられる。 「なぜ、お前が……」  地面に跪いたまま信じられないという体で見つめ、周りを見渡すが、兵士もみな目の前の僕に向かって頭を下げているのを確かめた。 「あなたが、龍神の末裔……」  確かめるように呟くと、「急ぎ、宮殿にお越しください」と再び頭を下げた。 「すぐにと言われても……」

ともだちにシェアしよう!