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王の帰還

 たくさんの人たちに囲まれて、頭を下げられて、自分でも把握できない状況に戸惑っている。 「僕が、龍神の末裔って……言われてもよくわからないんですが」  そういうとフェルメは、「宮殿の総領にお会いになって頂き、いち早く水の浄化とブルーメンブラッドの再興を……」と矢継ぎ早に話す。 「ふぇ、フェルメ様。今はこの場を離れたくはありません。もしも、僕がフェルメ様の言うように杜人であるなら、この雨を降らせることができたというのなら、それはこの戦いを終わらせるためです。この戦いの終わりは人々の幸せです。ここには傷ついた人たちもたくさんいます。僕の仲間だって今頃どうしているか分からない」  スオーロに捕まってしまった仲間がどうしているか、アウルムで戦っているヴァレンや兵士、心配なことはたくさんある。 「ですが、水源の浄化をしなければたくさんの……」 「フェルメ。これだけの雨が降っているのだ水の心配は必要ないだろう」  シャルールはシャージュに支えられたまま横たわってか細い声でフェルメを遮った。 「シャルール様、あまりしゃべらない方が……」  傷を心配してシャージュが注意するが、シャルールは自分の肘で地面を抑えてゆっくりと起き上がった。 「……スオーロ国の統治が先だ。アウルム国は我がエクスプリジオン国が統治することになり、すでに調印も済ましている」 「ですが、この御身体では」  杜人といっても不死ではない。能力を使い切ってしまえば力尽き果てて命を落としてしまう。まして大怪我も負っているのだ。  いまからさらにスオーロまで攻め入る体力も残っていないだろう。 「スオーロの参謀はそこに囚われている」  シャルールが見やった先にはオオシが倒れたままになっているが、エクスプリジオンの兵士が囲んでいた。 「王の代わりならば、奴の調印があればスオーロもエクスプリジオンが収めることができる。フェルメ、その能力で奴を回復させよ」  シャルールはそう言うと、シャージュに、「エクスプリジオンに急ぎ使いを出し、調印の準備をさせろ」と言った。 「シャルール様。まずはご自身の治療を……」  シャージュはそういうが、シャルールは、「雨で身体は冷えた。傷は大したことはない」と言って再びシャージュにもたれ掛かると、短くため息を吐いて目を閉じた。 「フェルメ様。僕はシャルール様が言うようにここに残ります。僕が、今できることをします」 「分かりました。ですが、事が収まればすぐにでもブルーメンブラッドにお越しいただきます」

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