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第7話

そこから10年たって。 していた仕事の出張先で、食事をしようと小さな喫茶店に入った。 ランチタイムも終わりかけで空いていた。 空いてる席に座ると、すぐに1人しかいない店の人がやってきて、でも、来るなりテーブルの上にグラスと水をぶちまけた。 グラスが飛び散り、服が濡れた。 びっくりして顔をあげると、そこにアイツがいた。 怯えたその顔。 忘れられない顔。 すぐに逃げようとした腕を掴んだ。 「行かないでくれ」 懇願していた。 もう彼女もいた。 結婚も決まってた。 でも、全部どうでも良くなった。 オレもアイツも震えてた。 アイツはやはり中性的で、地味で、綺麗だった。 この服の下に、ちいさな胸があることを本当の意味で知ってるのはオレだけだと思った。 吸って舐めて、噛んだのだ。 「別に許しとか要らないから、気にしなくていいから」 アイツが震えて言う。 「忘れていいから!!」 アイツの声が震える。 僅かに残っていた客たちも驚いてみている。 「仕方なかったって分かってる」 アイツは言う。 震えて怯えて。 オレは。 抱きしめていた。 しっかり抱きしめていた。 「会いたかった。ずっとずっと、会いたかった!!」 オレは泣いてた。 殺されそうな時でも泣かなかったのに。 腕の中のアイツが、震えた。 でもそれは怯えているからじゃないとわかった。 「話がしたい。させてくれ」 オレは懇願して。 「わかった、もう少し待ってて」 そう言ってもらったのだった。 喫茶店の二階で待っていた。 そこはアイツの家だった。 一匹の猫とたくさんの本。 猫はオレを見ると本棚の上に上がってしまった。 古い居心地の良いソファでアイツを待った。 本。 猫。 ああ、何も知らない。 アイツについて。 あの時も今も。 抱きしめてその身体に入ったけれど。 知りたかった。 もっともっと。 アイツが上がって来るまではそんなに長くなかったはずだ。 でも永遠みたいに思えた。 震えながら待った。 待ってる間に彼女に電話した。 出なかったから留守電に別れるとメッセージを入れた。 酷いと自分でもおもったが、仕方なかった アイツが許してくれなくても、嫌われてても、もう戻れなかったから。 他の誰も無理だった。 そう分かってしまったから。 上がってきたアイツを見つめた。 他には要らなかった。 だれも。 「あれは特殊な経験だから。思いこんじゃダメだって言われてきた」 アイツがぽつりと言った それはオレも何度も言われた。 「どうでもいい」 オレは心から言った。 ずっと思ってた。 もう会えないとも思っていたけど。 毎日考えた。 誰を抱いても思ってた。 抱いた身体を思い出してしてた。 「信じてもらえなくても。事件の前から好きだった」 やっと言えた。 アイツが立ち尽くす。 見つめる。 忘れたことなど無かった。 「今でもだ」 これも信じてもらえないとは思ったけど言った。 「君はおかしい」 アイツがふるえていた。 抱きしめたかった 「ずっとおかしい。おまえに会えなくなってからはずっと」 心から言った。 マトモじゃないのは知ってた。 全ての人間を抱いてても、抱いてるのは一人だなんて。―― 「君は思い込んでるだけ」 泣きながら言うから。 辛そうだから。 立ち上がって抱きしめてしまった。 アイツはオレの胸で泣いた。 髪を撫でた。 あの時みたいに。 「オレを好きになって」 高校生でもしないような懇願をした。 アイツはなにも言わず、オレにキスを求めた。 それが答えだった 終わり

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