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第15話
朱音、今日は泊まってくだろ?」
「いや、泊まりはいい」
「え!なんで!」
初めて結ばれたあの日から、俺たちは順調に愛を育み、春休みになってからも、俺と朱音はほぼ毎日一緒にいる。
デートはだいたい、俺の家でまったりすることが多かったけど、今日は久しぶりに二人で話題のアニメ映画を見に行った。その後、結局一番落ち着くし安いからと地元に戻り、いつものファミレスでご飯を食べているところで、当然このままお泊まりコースだと思っていた俺は、目の色を変えて朱音を誘う。
「今日はお袋久々に遅番なんだから泊まってけよ!」
「嫌だよ、だっておまえ家行くと絶対してくるし、初めての時もほんとしつこかったし、泊まりはもう無理」
ドリンクバーのオレンジソーダを飲みながら、朱音は少し声を顰め首を振る。
なんでだよとがっくり肩を落としながらも、俺も正直、あの日はさすがに初っ端から飛ばしすぎたと反省していた。あれから一晩中なんてことはさすがにないけど、朱音が警戒してしまうのも無理ないかもしれない。
朱音を好きになって、男同士のやり方調べた時は、最初は触りっこだけにしとこうと、思っていたはずなのに、実際、朱音が俺の手でいく姿を見たら、どうしても最後までしたくて我慢できなくなった。
風呂場にあった、母親が使っているクレンジングオイルを見つけた俺は朱音に懇願し、指で充分朱音のそこを解した後、バックで初めて繋がり、それから、二人で俺の部屋のベッドに移動して、二回目は朱音の顔を見ながらしたかったから正常位で抱いて、あまりにも最高すぎたからその後も…
「うるせえな!さっきから変なことブツブツ呟いてんじゃねえよ!」
「え?」
心の中だけで思いだしてるつもりだったのに、いつの間にか口に出ていたらしい。
「じゃあさ、何もしなきゃ泊まってくれるの?」
「出来もしねーこと言うなよ」
小さな頃からの幼馴染なだけあって、朱音は俺のことよくわかっている。
「だってさ、好きな子側にいたらそりゃしたくなるに決まってるじゃん」
「バカ!声でかい!ちょっと抑えろ」
朱音はシーッというように口元に人差し指を添えると、さっきより小声で言葉を続ける。
「別に俺も絶対したくないわけじゃなくて、おまえしつこすぎんの。泊まらない日でさえそうなのに、一晩中とかきつい」
「じゃあ3回までにすっから」
「それがもう多いんだよ!」
「あれ!晴翔と一ノ瀬じゃん!」
とその時、突然懐かしい声がして、ギクリと振り向いたその先に、槙野と谷口が立っていた。
「ゲッ!」
「なーにゲッて!1年ぶりの再会なのに酷い!うちら突然晴翔にラインブロックされてめっちゃ辛かったんだから!」
嬉しそうに走りよってくる槙野に、こんなことになるなら地元のファミレスなんて寄らず、中学の時みたいにコンビニで弁当でも買って真っ直ぐ朱音と俺の家に帰れば良かったと後悔したが今更遅い。追いうちをかけるように、谷口と朱音が会話をはじめる。
「久しぶりだね」
「うん…谷口も、久しぶり」
もう真央とは呼ばない朱音にホッとしたけど、朱音も明らかに、元カノの出現に動揺しているようだった。さっきまで二人だけの世界だったのに、槙野と谷口が現れた途端、まだ朱音に片思いだった中学生だった頃の感覚が蘇ってくる。
「今日は優樹君一緒じゃないんだね」
その上谷口が余計なこと言ってきて、どうにかこいつらを追っ払う方法はねえかと思っていたら、朱音が突然立ち上がり谷口の腕を引く。
「谷口、ちょっとだけいい?晴翔と槙野はここで待ってて」
「は?なんで?」
「いいから」
そう言うと、朱音は谷口を促し、二人でファミレスの外に出て行ってしまった。
「なになに?もしかして二人の復縁あったりして!ねえねえ!晴翔と私も折角再会したんだからまた遊ぼうよ!やっぱりさあ、中々晴翔以上にビジュアル好みなイケメンいなくて…」
槙野が隣でごちゃごちゃ話しているけど、俺は気が気じゃなくて、朱音と谷口が出て行ったファミレスの出入り口から目が離せない。しばらくすると、ようやく朱音と谷口が戻ってきて、久々に見た、二人が並んでいる姿に、心臓がキリキリと痛くなる。
「ほら樹莉、私達は帰ろ」
だけど谷口は、俺らの席に来ると直ぐに、槙野の腕を掴み引っ張った。
「えー!!ヤダヤダ!もっと晴翔といたい!」
「ダメだよ、私達はお邪魔だから」
「なんでよー」
「ほら行くよ」
言いながら、渋々立ち上がる槙野を促していた谷口と不意に目が合う。中学の頃、俺達が目で追っていたのはいつも朱音だったから、谷口と互いに視線が合ったのは、今日が初めてかもしれない
「良かったね」
「え?」
谷口は、抑揚のない声でボソッとそう呟くと、そのまますぐに俺から目を逸らし、槙野と一緒に立ち去って行った。
谷口の言葉の意味はわからなかったけど、二人が去ってくれたことに、俺は心底ホッとする。でもそれよりも気になるのは、朱音が谷口と二人で話しに行ったことだ。
「谷口と二人で何話してたんだよ」
「俺と晴翔が付き合ってること、谷口に言った」
「え!マジで?」
思ってもみなかった朱音の返答に、俺は驚愕する。俺らが付き合っていることは、俺の母親以外誰も知らない。
俺は人に知られても全然いいし、本当は優樹にも、朱音を完全に諦めてもらうために今すぐ言ってやりたいくらいだけど、朱音は相変わらず、自分がゲイだと知られることも、優樹に伝えることも頑なに嫌がった。だから、朱音が自ら谷口に言ったことが信じられなくて
「なんで谷口には言ったの?」
「わかんねえ、自己満足かもしれないけど、谷口には、俺がゲイだってことも、今は晴翔と付き合ってることも、ちゃんと言った方がいい気がして…谷口は中学の頃、俺が優樹好きだったことに気づいてたから、晴翔と付き合ってるって言ったらビックリしてたけど…」
ああ、だから良かったねだったのかと、谷口の言葉の意味を理解する。
「谷口に確認された、優樹君じゃなくて、本当に神谷君が好きなの?って、ほら俺、谷口に最低なことしてたからさ」
「それで朱音、なんて答えたの?」
「今は晴翔が好きだって、ちゃんと答えたよ」
朱音の好きが思わぬ展開で聞けて、さっきまで邪魔ものでしかなかった谷口に、急に感謝したくなる。
「優樹が彼女できた話ししたら、みんな青春て感じでいいなあって言ってた。谷口は女子校だし、勉強勉強で彼氏どころじゃないって、医大目指すんだってさ。ほんと、頭も、人としてのレベルも全然俺と違うよな。おまえは、槙野と二人の間なんか話した?」
「朱音と谷口のこと気になって、全然槙野の話し聞いてなかった」
「なんだよそれ」
いつも通りに話しているように見えるけど、朱音の表情は凄く心許なく、今にも泣きだしてしまいそうに見えて…。
「大丈夫だって」
「何がだよ」
「俺がいるから」
「わけわかんねえ」
俺の唐突な言葉に呆れながらも、朱音は嬉しそうに笑う。
「やっぱり今日、おまえんち泊まる」
「よっしゃ!!」
朱音が泊まると言いだしたきっかけが谷口なのは、ちょっと複雑な気もするけど、今夜一晩中朱音といられることを思えば、そんなことどうでもいい。お泊まりでずっと一緒にいられるのは、初めて結ばれた日以来久しぶりだった。
(ああもう、早く帰って朱音抱きてえ、今夜は沢山時間あるし、色々違う体位もしてみてえなあ)
「なんか、おまえ変なこと考えてそうだしやっぱりやめようかな」
俺の心を読めてしまうのか、帰ってからの朱音とのイチャイチャに夢を馳せていた俺は、考えてない考えてない!と嘘八百な否定をする。
「おまえ必死すぎ」
「仕方ねえじゃん!好きだから、ずっと一緒にいてえの」
「だから声でけえよ」
怒りながらも、照れくさそうな朱音が愛しくて堪らない。ただ普通の1日が、朱音といられるだけで、泣きたいくらい幸せな一日に変わる。
朱音をめぐるライバルが次々と去っていき、恋の勝利を確信していた俺の未来に、第二の波乱が待ち受けていることなど知る由もなく
俺は、長年の片思いが実った幸せで胸がいっぱいになりながら、朱音と一緒にいられる幸せを、この先一生絶対手離さないと、強く心に誓った。
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