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第3話
放課後、屋上――
一日の授業が終わってしまった。今日もこの後フェニックスワンダーランドに向かわなければならない。幸い昨日の告白は司には気付かれていないようだった。今日も昨日と変わらず司に接する事が出来ると何度も自分に言い聞かせた類だったが、自分を落ち着かせるために半日司から逃げ続けてしまった。
迂闊にも浮ついてしまった。言うつもりなんて無かったのにと類は何度目かになる深い溜息を吐き出した。
正直な気持ちを口にすれば気が思い。それでも告白が受け入れられなかったことより気付かれなかったことの方が何倍もマシだろう。類がネガティブ思考に向いてしまったのは言葉に出した事で自分自身の気持ちを自覚してしまったからだ。
司が気付かなかったとしても、自分は今後もただの仲間として彼と付き合っていけるだろうか。元より演技の才があった訳でもない、隠し切れる自信がない。いつかは誰かに気付かれてしまうかもしれない。
「類~~! 何処だあ~~!!」
校内中に響き渡る司の声に類は息を呑んだ。一体どこから司の声が聞こえるのだろうかと屋上から校舎を見下ろしてみれば校舎の周囲を走り回る見知った頭部。
「類、俺はっ……」
校内に既に居ないかもしれない類を探し回り、息を切らせながら司は駆け巡った。
やがて校舎全体を見渡せる校庭の中央まで走り出ると校舎全体を見上げる。
「お前の事が大ッ好きだあ!!」
校舎の至る所から生徒のどよめきが聞こえる。羞恥プレイとはこういう事かと自覚する類だったが、これがどちらに対する羞恥プレイとなるのかは判断が付かなかった。
「俺とー!」
どきり、と類の心臓が大きく鐘を打った。確かに司が屋上に居る自分へ視線を送っているように見えたからだった。
「お付き合いをして欲しい!!」
類から司が見えているという事は、当然司からも類を視認する事は可能な筈だった。類にすら予想する事が出来なかった展開。
司はその瞬間確かに屋上に居る類の姿を確認していた。類が精一杯の思いを振り絞ったのならば自分も出来る限りその思いに応えたい。外履きがまだ靴箱に残っていた事から下校していない事は明らかだった。大声で呼べば、類ならば必ず顔を出す筈だという司の目的は見事に功を奏したのだった。
――逃してなるものか。
額に浮かぶ汗を拭い、再び校舎へと入っていく。向かう先は勿論屋上。
「類~~!」
公衆の面前で公開告白を受けた類は、このまま死ぬのではないのかという程高鳴る心臓の鼓動に押し潰されていた。
全身が心臓になったかのようにばくばくと煩く、風邪をひいたかのように全身が熱い。
今ここで死ぬのだとしても、司の気持ちを知る事が出来たのならばそれでも良いかと類の口元は緩んでいた。
「司くんってば、本当に……」
「見付けたぞ、類」
ガチャリ、と屋上の扉が開けられた。心臓が口から飛び出すのではないかと思うほどの衝撃に顔を上げると夕焼けを背に司が両肩を上下させて立っていた。
「……つかさ、くん……」
これが死の間際に見るという走馬灯だろうか、それとも都合の良い夢を見ているだけか。何段飛ばしで階段を登ってきたのか、校舎に入ってから屋上に現れるまでの時間が異様に短かった。
少しでも間を置けば類は屋上から逃げ出してしまうかもしれないと考えた司は必死だった。
柵に捕まり立っている事がやっとの類にずかずかと大股で司は近寄る。類の目の前まで近寄ると膝をつき左手を恭しく差し出す。
「――ああ類、俺の太陽」
――ああジュリエット! 僕の太陽!! どうか、この僕と結婚してほしい!!
「ッ、つか、さく……」
司の口から放たれたその言葉に類は聞き覚えがあった。
文化祭で司の相手役の練習をかって出た事があった。あの時の言葉はただの台詞だったとしても、今その言葉は類自身に向けられている。
「太陽が無いと輝けない」
類の瞳が揺れた。夕陽に照らされた司の表情がとても穏やかな笑みに見えたからだった。
夢にしか思えない、こんな現実がある訳が無い。そう考えながら類の右目からは涙が伝い流れ落ちた。
「お前の演出で俺を輝かせてくれ。 ――これからも、ずっと」
差し出された左手に自分の手を重ねようと類は手を伸ばすが、それより早く膝から崩れ落ちた。
これは夢ではなく現実なのだと理解出来ない類ではなかったが、この現実を想定した事は今まで一度も無かった。
苦しさ、気まずさ、恥ずかしさ、戸惑い、そして――嬉しさ。
両膝をついた類の体を司はそっと抱き締める。今度は間違えなかった、その事実は司を大きく安心させた。
「……司くん」
一日も経っていないのに、随分長い間会えていなかったような気がする。
耳を澄ませれば司の心臓もとくとくと速く打っている。これは階段を駆け上がった体力の問題か、それとも――
許されるのならば、と類も司の背中に両手を回しセーターを掴む。
「月が傾く前に、出会えて良かった……」
「……っそ、それは一体全体どういう意味なんだ類」
「ふふっ」
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