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第2話

「司先輩、今日は神代先輩と一緒ではないんですか?」  翌日2年A組の教室を通り掛かった冬弥は、珍しく昼休みに一人でスマホを弄る司の姿に目を留め声を掛けた。彰人は気にするなと冬弥を止めたが、このまま司を放っておいてはいけないような胸騒ぎがあった。 「ああ冬弥か。うむ、今日は類に避けられているようでな」 「神代先輩が……司先輩の事を、ですか?」  そしてその胸騒ぎは案の定的中した。逆ならばまだしも、類が司を避けるという事態は普段の二人からは考えられないものであった。  昨晩からチャットアプリでの連絡は全て既読スルーをされている。授業が始まる前に隣のクラスを覗き込んだら類の姿があった事から登校はしているらしいが、休み時間に訪れても何故かすれ違ってばかりで一度も会話が出来ていない。 「どうせあんたが無神経な言い方でもしたんじゃねぇの?」  痺れを切らした彰人が冬弥の背後から声を投げる。二人の性格を表面上だけでも理解している彰人からしてみれば、その原因は司自身の言動起因以外に考えられなかった。 「無神経……そんなつもりは無かったのだが……」 「心当たりあんのかよ」  彰人の指摘を受けて思い浮かぶことといったら一つしか無い。切っ掛けは昨晩の月を見上げた時の会話に他ならないだろうが、そのやり取りの中に類に避けられる要素があるとは司には考えられないのだ。 「いやなんだ、類が『月が綺麗だ』と言うから『本当だな』と俺は返しただけなんだが。何がいけなかったのだろうか……」  心なしか教室内がざわついた気がした。  その気配を察して視線を向ければ、司と視線が絡んだ女生徒が即座に目線を外した。やはり原因はこの会話の中にあるのだろうと気付けない司では無かったが、具体的な原因を推し量る事が出来ないでいた。  この返事の何がいけなかったのか、理解した上で謝罪をしなければ類に対しても失礼にあたる。同意した事が間違いだったのか、それとも類の期待する返事が他にあったのか―― 「……司先輩、それは夏目漱石です」 「なぬっ!?」 「ああ、『I love you』を『月が綺麗ですね』って訳したってやつか」  本当に分からずに悩んでいるのか、冬弥は尊敬する先輩に助け舟を出す事にした。もしかしたら司は自分自身で正解を見付けたかったのかもしれないが、悩んでいる姿は真剣なものに見えたからだった。  彰人ですら知っていたその表現を、決して成績が悪い訳でもない司が知らなかったという事実は意外だった。  かの文豪夏目漱石が訳したとされる愛情表現の言葉。今となってはその信憑性も薄いものではあったがそれでもロマンチックな告白方法としては多く使われている。 「類が……俺の事を……?」  その表現については確かに司も聞き覚えがあった。今まで告白などに縁のなかった司は無意識にその可能性を頭から排除してしまっていたのだ。  二人からの指摘で合点が入った司ではあったが、それと同時に類から昨晩愛の告白を受けていたという事実に気付き心臓が大きく高鳴った。  類は決して冗談でそのような言葉を口にする人間ではない。きっと昨晩あの時間あの状況で千載一遇のチャンスと思い口に出した言葉だったのだろう。その勇気を気付かなかったからと言って無碍に交わしてしまった自分の愚かさに血の気が引いた。 「……で、どうすんだよあんたは」  赤くなったり青くなったりところころと表情を変える司の姿に意図を察してしまった彰人。二人には少なからず世話になった経緯がある。結果がどちらに転ぶとしても背中を多少押す位はしても良いだろう。 「俺は……」

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