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第6話 記憶
オオキリの次期ご当主様が部屋を出たあと、トリヤに抱きかかえられて隣の寝室に入った。まるで金持ち のご令嬢のように横抱きにされているのがおかしくて、思わずクスッと笑ってしまう。
「何がおかしい？」
眉を寄せながらも優しくベッドに下ろしてくれたトリヤに、「だって、おかしいだろ」ともう一度笑った。
「俺はただの踊り子なのに、これじゃあ金持ち のお嬢様だ」
「タマはただの踊り子じゃない。この街一番の踊り子で踊りの神の申し子だ」
「はいはい、ありがとな」
俺の返事が気に入らなかったのか、トリヤの眉間にさらに皺が寄る。
「ほら、そんな顔してると強面になるぞ？ せっかく綺麗な顔してんだから、もったいねぇだろ」
「……そういう言葉は初めて聞いた」
「初めて言ったからな」
仏頂面だったトリヤの顔が、少しだけ照れたような笑みに変わった。こうした些細な表情の変化を見るたびに「俺だけが見られるんだ」と優越感に浸りたくなる。
（そんなふうに思う段階でただの友人なわけねぇよな）
それなのにトリヤを受け入れるのを拒否してきた。
（だって、オジサンどころか四つも年下なんだぜ）
俺は昔から同年代や年下が無理だった。そういう雰囲気になるだけで吐き気がして体が受けつけなかった。初体験はオジサンで済ませたし、人気が出るにつれて声をかけられるようになってからも中年以外は断り続けた。
だから、トリヤと関係を持ってもすぐに駄目になると思っていた。
（それなのにトリヤは平気なんだよな）
それどころかキスだけでこんなにも興奮してしまった。同年代の男なんてごめんだと思っていたのに、いまは嘘みたいにトリヤに触れてほしくて仕方がない。
「急に素直になるなんて、どうしたんだ？」
「何だよ、不満でもあるのか」
「これまでどんなに“前世からの恋人”だと言ってもなびかなかったじゃないか」
「それはそうなんだけどさ」
別に“前世からの恋人”だと実感したわけじゃない。それでもトリヤは特別だと思っているし、できればこの先もそばにいたいと思った。ひとときの恋人ではなく、踊り子でなくなった俺の“最後の恋人”になってほしいと思ってしまった。
（でも、トリヤが“前世からの恋人”にこだわっているんだとしたら……）
ひと月近くも一緒に過ごしているのに、俺には前世の記憶がない。何か思い出すこともなかった。こんな俺でもトリヤはいいと言ってくれるだろうか。
「あ……のさ。俺に前世の記憶が蘇らなかったら、……あんた、どうする？」
思わず問いかけた俺に、トリヤの黒目が大きく見開かれた。
「あー、いや、だってさ。兄貴には“前世からの恋人”だって言ってただろ？ それに婚約まで破棄して、それなのに俺が“前世からの恋人”じゃなかったら、あんたどうするのかなって思って」
少し早口で言うと、トリヤの表情が少し和らぐ。
「別にタマに前世の記憶がなくても構わない。むしろここまで真っさらということはないほうがいいんだろう」
「なんだよ、前世の俺ってそんなにヤバい奴だったのか？」
「いや、いまのタマよりずっと純情で奥手だったな」
「なんだよ、それ」
不意に夢の中の俺が脳裏を横切った。純情かはわからないが、夢の中の俺が奥手なのは間違いない。物陰から想い人を見つめ自慰に耽るってことはただの奥手じゃないんだろうが、強気な性格とは言えなかった。もしかして、前世の俺は夢の俺みたいな奴だったんだろうか。
「僕はいまのタマも好きだ」
夢のことを思い出していた俺は、トリヤの言葉に一瞬反応できなかった。言葉の意味がわかった途端に顔が熱くなる。そんな顔をトリヤに見られるのが恥ずかしくて、ゆっくりと顔を背けた。
「……急になんだよ」
「赤くなった」
「うるせぇ」
「どういうことだ？」
「どういうことって、そういうことだよ」
「よくわからないんだが」
「あんたこそ空気読まないな」
「……つまり、本当に恋人になってもいいということか？」
ベッドに腰掛けたトリヤの手が、顔を背けたままの俺の頬に触れた。たったそれだけで燻っていた熱が少し上がる。
「俺には“前世からの恋人”の記憶はない。これっぽっちも蘇ってない。それでも、あんたが俺を好きでいてくれるなら……って、こらっ」
「記憶がなくても構わないと言っただろう。僕はタマだからいいんだ。タマが好きなんだ」
急に抱きしめてきたトリヤに驚きながらも、かわいい奴だなと思った。普段の無表情で金持ち らしい態度や表情とは違う一面に胸がくすぐったくなる。
「それに……記憶があることがいいとは限らない」
「トリ？」
何かをつぶやいたトリヤが、ゆっくりと体を離した。俺を見下ろす顔はいつもより真剣に見える。
「僕は辛抱強い。それはタマもわかっているだろう？」
「そうだな。金持ち らしく偉そうにはしてるが、たしかに辛抱強いと思う」
「僕自身もそう思っている。だが、気持ちが通じあったときまで辛抱したいとは思わない」
俺を見下ろしている黒目が鋭くなった。そんなに俺をほしがってくれているのかと思うと体の奥がゾクゾクしてくる。
「告白されてすぐにがっつくなんて、金持ち らしくねぇぞ」
「僕のことは金持ち と思わなくていい。僕は金持ち として踊り子のタマがほしいんじゃない」
トリヤの大きな手が肩から腹にかけてをゆっくりと撫でた。途中、尖っていた乳首を緩く擦られ、体の熱がぶり返す。
「金持ち なのに変わってるな」
「中年しか相手にしなかったきみも変わっていると思うが？」
「ははっ、たしかにそうだな。でも、もういいんだ。オジサンにしか目が向かなかったのだって、夢の影響だったのかもしれねぇし」
「夢？」
「何でもねぇよ。それより、当然オジサマたちより気持ちよくしてくれるんだろうな？」
ニヤリと笑いながらそう挑発すると、黒目が少し丸くなった。そういう表情は年相応だなと思いながら、トリヤの首に腕を回して思い切り引き寄せた。
手慣れた年上らしくリードしてやろうと思った俺は、さっさと裸になりトリヤの下半身からズボンと下着を奪った。すでに臨戦態勢だったペニスにほくそ笑みながら、自分の腰をゆっくり下ろしていく。
男に抱かれ慣れている俺でも一瞬息が詰まるくらいトリヤのペニスは雄々しかった。それでも動きを止めることなく飲み込んでいく。
ズブズブと中を押し広げられるたびに背中を甘い痺れが走り抜けた。これまでの恋人たちとはまったく違う感覚に、これがトリヤとのセックスなのかと思わず舌なめずりしてしまう。
「慣れて、るな」
「この街の踊り子なら、大抵は、こうだぞ？」
「わかってはいたが、……ッ、複雑な、気分だ」
眉を寄せて快感に耐えるトリヤの表情を見るのが楽しくて、途中で腰を軽く上下させた。いやらしい音がいつもよりも大きく聞こえるのは、俺の体が抱かれ慣れているからだけじゃない。
入れる前、握ったトリヤのペニスはすでにヌルヌルと濡れていた。それだけ俺に興奮しカウパーをあふれさせていたということだ。そう思うだけで気持ちが昂ぶり俺自身のペニスも期待に膨らむ。
俺は、思う存分動けるようにトリヤの腹に両手を乗せた。そうして少し突っ張り、足の裏をしっかりとベッドにつける。そこからは膝の屈伸を利用して思い切り腰を上下に動かした。同時にイイトコロに亀頭が当たるようにして自分の快楽も追う。
「く……ッ。タマ、少し、……ッ」
「なん、だよ……、もう、降参か？」
「違う、が、されっぱなし、という、のは……ッ」
「んっ！ はは、中で震えてるのが、よく、わかる」
「タマ、っ」
トリヤの顔が快感に歪むたびにゾクゾクした。俺の体に感じているんだと思うと体の中から得も言われぬ悦びがあふれてくる。それは舞台の上で大歓声に包まれている感覚に似ていて、次から次へと昂ぶる気持ちが抑えられなくなった。
（そうだ。俺はこういうセックスが好きなんだ）
いや、踊り子なら誰だって舞台に立っているときのように熱くなれるセックスが好きなはずだ。だから舞台後に呼ばれるのが好きだったし、余韻のままベッドに入るのも好きだった。
それに、いま肌を重ねているのはトリヤだ。これまでの恋人たちとは全然違う。年齢の違いもあるだろうが、俺の気持ちも違っているように感じる。そのせいかますます体が熱くなり頭まで恍惚としてきた。
あぁ、なんて気持ちいいんだろう。そうだ、俺はずっとこうしたかったんだ。ずっと、こうして抱かれたいと思っていた。
――……ようやく、……に、抱いて、もらえた……。
脳裏にそんな言葉が浮かんだ瞬間、こめかみにひどい痛みを感じた。快感にうっとりしていた俺は驚き、突っ張っていた両手が少し緩む。足からも少し力が抜け、上がっていた腰が勢いよくトリヤの上に落ちてしまった。
「ひぃっ！」
一瞬、星が飛んだような気がした。目の前がチカチカし、頭の奥がビリビリする。おかげでこめかみの痛みは吹っ飛んだが、代わりに腹の奥がとんでもないことになった。
「タマ、大丈夫、か……？」
急に腰を落としたから心配したんだろう。気遣うようなトリヤの声は聞こえているが答えることができない。そのくらいすごい衝撃で、結腸付近の壁を押し上げられた俺は呼吸することもできなくなっていた。
「タマ？」
「ぃ……っ」
トリヤが少し動くだけで目の前に星が飛び散る。これまでも何度か結腸付近を突かれたことはあったが、ここまで強く押し上げられたのは初めてだ。初めてなのにソコは気持ちよさに痙攣して、同時にあと少しずれるだけでとんでもないことになると思った。
はっきり言って、俺は抱かれ慣れている。一番人気の踊り子で抱かれる側一辺倒だった俺の後孔は、もはや性器そのものだ。そんな俺でも結腸に触れられたことは一度もない。そこに入るまでの長大なペニスに出会ったことがなかったからだ。
それが、トリヤのものは直前の肉壁をとんでもないくらい押し上げている。つまり、その先に入るだけの長さがあるということだ。
（だめ、だ……そんなの、……どうなるか、わかんねぇ……）
力の抜けた両腕を、再び突っ張ろうと試みた。しかし小刻みに震えるばかりで力が入らない。腰も抜けてしまったようで足を踏ん張ることも難しかった。
「タマ」
「……っ」
トリヤの両手が俺の胸を掴んだ。驚きのあまりビクッとしてしまったせいで、肉壁を押し上げていた亀頭の位置が少しずれる。そのまま結腸を貫かれるのではないかと焦った俺は、息を呑んで体を強張らせた。
「下から見ると、胸、けっこう大きいな」
「な……っ」
「それに、尖った乳首も大きい」
「やめ……っ」
トリヤの手が、俺の胸を下から揉み上げるように動き出した。ゆっくりとじっくりと何度も押し上げるように揉む。ほどよい筋肉がついた胸だからか、過去にはこうやって揉むように触る恋人もいた。だが、所詮は男の胸で女のような弾力はない。大抵はすぐに飽きるはずなのに、トリヤは何度も何度も揉みしだいてくる。
「こうして揉み続ければ、そのうち挟める、かもな」
「なに、い……っ」
「乳首からも、何か出そうだ」
「ぃ……！」
揉みながら、トリヤの指が乳首の先をピンと弾いた。それを何度も何度もくり返す。そうしてますますぷっくりした乳首の先を爪でグリグリ抉られて胸全体が熱くなった。
俺は胸と乳首をいじり続けるトリヤの手を止めようとした。これ以上触られたら胸までおかしくなりそうで怖くなった。しかし、いま両手を腹から退ければ腰の位置がまた変わってしまう。そうなると、ギリギリで逃れている結腸に亀頭が入り込んでしまうかもしれない。
「乳首を弾くたびに、中が、く……ッ、すごい、な」
「……っ、……っ」
「前も……こう、だったんだろう、か」
つぶやくようなトリヤの声に、思わず顔を見下ろした。そんな俺に少しだけ笑いかけたトリヤの手が揉んでいた胸からゆっくりと離れていく。それにホッとしていると、離れた手が腹筋に触れ、そのままカウパーでしとどに濡れている俺のペニスに触れてきた。
「ぅあ……っ」
ペニスに触れられた瞬間、本能で体を少し仰け反らせてしまった。そのせいで体内の亀頭の位置が変わり、肉壁を押し上げていた勢いのまま狭い肉壁をグボッと通り抜けてしまった。
「……！」
頭が大きく仰け反った。開いた口からはヒュウッと息が漏れ、そのまま舌が伸びて息ができなくなる。そんな俺の腹の奥で、トリヤのペニスが大きく脈打つのを感じた。
「……もって、いかれたな……」
トリヤのつぶやきがぼんやりと聞こえる。初めての場所に侵入された俺は、あまりの衝撃からかショロショロと漏らしてしまっていた。
「……前は、どうだったんだろうな……」
トリヤの声が小さくなっていく。俺はわけがわかならくなりながら意識を手放した。
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