1 / 6

1.流れ星

コンビニのバイトの帰り道、発売日に手に入れたBL本を手に、意気揚々と自宅への帰路についていた。 俺はいわゆるフリーターで大学も肌に合わずに辞めてしまったけど、家族はそんな俺を叱りはしたがお金を稼ぐなら何でもいいと、優しく受け入れてくれた。 未だに実家暮らしの俺は、早い年齢から腐女子となった姉の影響もあり、姉に巻き込まれる形でBLとはなんぞや?という教育という名の布教を自然と受けてきた。 特に反抗期もなく元々漫画が好きだった俺は姉に恨み言を言うでもなく、BLも1つのジャンルとして捉えていたし、他のヤツらみたいに偏見もなかった。むしろ、今では姉に影響されて自ら買って読む側、俗に言う腐男子だったりする。 自分の見た目は平凡だし、髪の毛はいつもお安いところに行って適当に切るだけだし、大体忘れてるから前髪が伸びて顔が見えない。本の読みすぎで視力も悪いし、黒縁の眼鏡をかけているから、顔も隠れてる。服装も母親が買ってきたスーパーの服で適当だ。 俺は野暮ったいし、友達も少ないけど、萌えがあれば生きていける。別に同志はネット上にもたくさんいるから寂しくもない。 帰路の途中、何気なく夜空を見上げる。ここは一応は都会でそこまで星が見えるわけじゃないけど、天気が良かったせいか、珍しくキラキラと輝く星たちが優しく夜空を照らしていた。 「今日は良く見えるな。たまにはこういうのも……って、アレ?もしかして流れ星?」 なんちゃら流星群なんてニュースやってたか?と思ったけど、気分も良いしノリでお願い事をしてみることにする。両手を合わせて、目を閉じて―― 「……よし」 俺は心の中で願い事を唱えると、本を抱えて帰り道を急いだ。 「ただいまー」 「おかえり、サツキ……って。また買ってきた訳?読んだら貸してよ」 「自分で買えばいいじゃん。俺はこれから引きこもるからよろしく」 「引きこもるって、いつもだから」 姉と適当なやり取りをして、2階の自室に上がると俺は至福のひとときを過ごすのが日課だ。 母も別に邪魔はしないし、家族とも上手くやってるから問題もない。ウチはおおらかな一家なのだ。 今日はご飯も適当に食べるからと言ってあるし、邪魔が入らずに新刊を堪能することができるのだ。肩から提げていたボロい布のバッグも適当に床へと放り、手にした本屋のビニール袋は胸に抱く。 「さて、この前は2人で揉めてたけど。今回こそは……」 俺は早速お気に入りの低反発クッションに寄りかかり、ページを捲り始めた。 +++ 「うぁーー!!最高!!最&高!!萌えるーー!!」 本日の新刊を読み終えて、クッションに顔を擦りつけてもだもだする。 俺が叫ぶのもいつものことなので、特に隣室の姉からも苦情はない。 早速、本の感想を熱い気持ちのまま伝えようと、スマホを手に取りSNSへと書き連ねていく。同じく今日新刊を読んだ人たちから、数分もしないうちにいいねがたくさん付く。 「みんな俺と同じ気持ちなんだってー。あそこでの顎クイはズルい!尊い!!」 気持ちが冷めやらぬまま、風呂にも入ってないことを思い出す。何度でも読み返す価値のある素晴らしい展開に本へと両手を合わせて拝み、ベッドの上に置く。 (後は、寝る前にもう一度読み返そう!そうしよう!) ニヤニヤしながら、鼻歌混じりで階下の風呂へと向かう。鼻歌が音痴だったのだけ姉に突っ込まれたけど、気にせず牛乳を一気飲みして、至福のひとときその2へと向かうのだ。部屋に戻って髪の毛が乾くまではまたスマホを弄って、髪の毛が渇いたところで明かりを落としてベッドへと横たわる。そして、愛を込めて2度見しながら寝落ちるまでが、いつものルーティンだ。 「うぅ……仲直りして良かった……!!俺はやっぱりラブラブなのが好きだ。切なくても、最後はラブラブハッピーがいい!」 幸せな気持ちで本を閉じると、スマホを充電してから布団をかけて本格的な眠りに入る。身体が暖まってくると、自然にウトウトとしてきて、気づいた時には眠ってしまった。

ともだちにシェアしよう!