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第1話 良いとこなし <Side 誓将
下手クソめ。
浮気するなら、もっと上手にやれよ。
お前はそんな不器用な人間じゃねぇだろうが。
昼を一緒に取ろうと、大学の学食で待ち合わせをしていた。
前の講義が押し、遅くなったオレ、美納 誓将 は、小走りに食堂へと向かう。
広い食堂前の空間にぐるりと視線を走らせ、待ち合わせの相手である阿久津 龍大 を探す。
昼の学食は、なかなかの混雑具合だ。
だが、160センチほどしかない小さなオレを探すのは困難だが、190センチオーバーで頭1つ飛び出している阿久津を探すのは造作ない。
食券の販売機の側に立っている阿久津の姿を見つけ、オレは駆け寄る。
「悪い。おく……」
声をかけるオレの瞳に、可愛らしい女の子が映り込む。
阿久津の腕が、その子の腰に回っていた。
抱き締められているその子は、小さくて可愛くて、阿久津の好みど真ん中。
オレには触れてもこないクセに、女の子の腰は抱くんだな……。
自分の小ささに、頭を振るった。
見た目も小さいけど、心も狭い。
オレってば、良いとこなしだな。
従兄弟の美納 晴樹 に脅され、男の娘専門の風俗で働いていたオレの前に客として訪れた阿久津。
女装し化粧も施しているオレは、身バレするコトはないだろうと高を括っていたが、瞬殺で見破られた。
弱みを握られここで働かされているのだと暴露したオレに、阿久津は“目には目を歯には歯を、盗撮には盗撮を”と、晴樹の恥ずかしいプレイ動画を入手してくれた。
そのデータにより交渉の余地を得たオレは、無事に男の娘専門の風俗店を辞めるコトが出来た。
阿久津が手に入れてくれた映像の確認の時、オレたちが両想いであるコトが発覚する。
でも、オレはまだ晴樹に脅されている最中で、阿久津には数え切れないセフレがいた。
阿久津はオレが男の娘専門の風俗で働いているコトが気に食わず、オレは阿久津の下半身のだらしなさが面白くない。
阿久津のセフレの1人に成り下がるつもりなど、さらさらない。
お互いの周りがスッキリしたらデートをしようと約束はしているが、目の前の現状に、その日が来るとは思えない。
お互いに気持ちは認めあったものの、オレたちの関係は微妙だ。
友人と呼ぶには近すぎて、恋人と呼ぶには遠すぎる。
それを現すかのように、阿久津はあれ以来、オレに触れてこない。
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