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第12話 嘘吐き呼ばわり
息と身形 を整え、人目を避けつつ、公園の外れに設置されている水飲み場へと移動した。
「お前、すげぇな……」
頬に飛んだ精液を親指で撫で取った誓将先輩は、驚きの混じる声を零す。
何が凄いのかわからない俺は、きょとんとした瞳を誓将先輩へと向けていた。
「ヤりまくってんのに、なんでこんなに濃いんだよ……」
不思議そうに眉根を寄せた誓将先輩が、ねっとりと指に絡まる精液を見やりながら、呆れの混じる声を放つ。
ヤりまくってる……?
誓将先輩と話して以来、俺は誰ともヤっていない。
自慰だって、終わった後の虚しさが嫌で、ほぼしない。
確かに、少し前の俺は、不特定多数の人間と身体だけの関係を持ち、ヤりまくっていたという自覚はある。
縛られるのが嫌で、相手の機嫌取りなんて以ての他で。
性欲の処理さえ出来れば良くて、面倒な恋人なんて、必要ないと思っていた。
傍 から見た俺は、いわゆる“ヤリチン”という枠に分類されていただろう。
でも、誓将先輩に告ってからは、浮気なんてしていない。
「ヤりまくってるって…、なに?」
納得のいかない俺の訝しげな視線に、誓将先輩は言葉を重ねた。
「学食にいたコも、バーテンの兄ちゃんも、お前のセフレだろ?」
睨むまではいかないまでも、その顔には嫌気が差していた。
誓将先輩は、俺がまだセフレを切れていないと思っているらしい。
「そうっすけど、“元”です。誓将先輩に“切れ”って言われて、すぐに全部切りましたよ?」
事実を伝える俺に、今度は誓将先輩の眉が歪んだ。
「嘘、吐 くな」
歪んだ眉のままで、鋭くなった疑心塗れの瞳が俺を睨みつけてきた。
絡んだ視線に、誓将先輩は逃げるように顔を背ける。
「……お前が、我慢できるとは思ってねぇよ。でも、ヤるならもっと上手くヤれよ。オレにバレねぇように、ちゃんと隠せよ……」
はぁっと面倒臭そうに息を吐いた誓将先輩は、俺の精液で汚れた手を水で流す。
俺の言葉は、嘘だと決めつけられる。
誓将先輩の中の俺は、男の娘専門の風俗に通うほど性欲を持て余しているだらしない男のまま、らしい。
「隠せって、なんすか…? 俺、マジで誰ともヤってねぇし……。なんで、そんな疑われなきゃなんねぇの?」
我慢できない決めつけられ、疑われたコト。
嘘だと決めつけられ、信じてもらえなたコト。
じわりとした苛立ちが、俺の言葉を荒くした。
怒りを通り越した感情は、寂しさを生む。
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