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第13話 信憑性に欠ける過去

 精液を洗い流して綺麗になった誓将先輩の手を握る俺に、疑念塗れの瞳が向けられる。 「あんな親しげに腰抱いといて? あんな自然に頭撫でといて?…あんな親密そうな空気醸しといて、なんもねぇとか、…ありえねぇだろ」  面白くなさそうに声を放った誓将先輩の顔には、投げ遣りな色が浮かぶ。 「奥野が言ってたデートの相手、学食のコだろ?」  断じて、デートではない。  だけど、彼女と2人で出掛けたコトは、否定のしようの無い事実で。  否定も肯定もしたくない俺は、視線を背けるコトしか出来なかった。 「後ろめたいから、そうやって目ぇ逸らすんだろ。疚しいからだろ? 昼飯奢ったのだって、オレに申し訳ないと思ったから、なんだろ」 「申し訳ないとか、そんなんじゃねぇよっ。マジで、セフレは全部切ったし。疚しいコトなんてねぇよ……」  どんなに言葉にしたって、心は開いて見せられるものじゃない。  思っていない、感じていないと伝えたところで、誓将先輩が信じてくれなければ、その言葉は意味を成さない。 「抱き締めたり、頭撫でたり…オレにはしねぇじゃん」  拗ねたような声を放った誓将先輩は、空いている手で浴衣をきゅっと掴んだ。  なんとも思っていない女の子は、普通に触れられる。  ルカの頭なら、なにも考えずに撫でられる。  誓将先輩の周りには、バリアが張られている気がしていた。  …いや。違う。  踏み込んで拒絶されるのが怖くて、なかなかその内へは踏み込めなかっただけだ。  なんとも思っていないから、近づけてしまう距離。  本気で好きで、嫌われたくないから臆病になり、遠退く距離。 「この格好ならって思ったけど……。オレが手ぇ繋がなかったら、お前は指先ですら触ってこねぇじゃん」  いじけた色を纏った誓将先輩の声。  あ。そうか。  これは誓将先輩のヤキモチだ。  信頼してもらえないからってイラついて、どうすんだよ……。  今までの俺を考えたら、信頼できねぇに決まってんじゃねぇか……。  俺の過去に、誓将先輩の疑念を晴らすほどの信憑性が無いだけじゃねぇか。

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