21 / 58

珍しい肉

 お母さんはどこだろう。そう考えながらもお義父さんに聞く勇気が出ない日々を過ごしてる。考えながらも学校では普通に何事も悩んでないフリをして過ごしてる。  友達だと思ってくれてる子達に心配させたくないし、俺がお義父さんの前でしてる事をバレたくないから、どんどん上部だけの会話しか出来なくなってる。  だって、お義父さんに可愛らしい女の子のような服を着せられて写真を撮られてるって言っても友達は困るだろうし。その上、あそこを触られて困ってるって相談したら、友達はもっと困るだろう。お母さんが居たとしても言えない。だってお義父さんはお母さんと結婚したのに。お母さんより俺と仲が良いなんて。  仲が良いってのとは違うかもと最近思ってる。お義父さんが怖くて言いなりになってるから。  今日はお義父さんの機嫌が良い。いつも俺には優しいのは優しいけどね。  夕食の時の事だった。 「翠。今日は珍しい肉が手に入ったんだよ。滅多に食べられないから食べてごらん。美味しいよ」 機嫌が良さそうだから思いきって尋ねてみた。 「お義父さん、最近お母さんを見かけないけれど、どこにいるんでしょう?すぐ帰ってきますか?」 ナイフをフォークを使ってメインの肉を細かくする。  ナイフとフォークは勿論この家に来てから使い方を覚えたものだ。「私の息子として、そういった場に相応しい振る舞いをしなくてはね」そう言われ、テーブルマナーも覚えさせられた。学校の給食でも使うから、早めに教えてもらえて良かった。友達みんな出来てるし、綺麗に食べるんだ。  蒼と分けあって1つのオムライスを食べてた頃が遠い昔のようだ。  お義父さんも肉を切っては食べ、隣の赤いワインを飲んでいる。この肉は珍しい肉、美味しいよと言う割には固くてそんなに美味しい物じゃないなと思った。それでも珍しいとお義父さんが上機嫌で食べてるから、肉の感想を言えば少しはお母さんの事話してくれるかなと思った。 「お義父さん、美味しいですね。初めて食べるお肉です」  ワインを飲み、お代わりを注いでもらいながらお義父さんはにっこりとこちらを見た。 「そうだろ美味しいだろ。お前のお母さんだからね」 「えっ…」    あまりの驚きと恐怖で両手のナイフとフォークを落とし、皿に落ちて金属と金属のぶつかる音がする。胃の中の物が逆流してきて嗚咽が漏れる。 「翠。冗談だよ。どんな時にも落ち着きを持ってほしくて試した冗談だ。替えの食器を持ってきてもらうといい」 「冗談、でしたか。ごめんなさい驚いてしまって」 「まだ子供だから仕方ない」 お義父さんは笑っていたけれど、これは本当にお母さんなのだろうかと、一度沸き上がった疑いの心は消せなかった。  お母さんが帰ってくるまでは信じられない。  どうにか残りの肉を切っては食べ、水で流した。  自室に帰ってからトイレで吐いた。お母さんだとしたらごめんなさい。違うんなら早く帰ってきて。なんで俺がこんな目に。蒼は何処にいるんだよ。なんで俺ばかりこんな目に。一層蒼を恨む気持ちが大きくなるのを止められなかった。恨んでもいいのは途中まで一緒に育った双子だけだと思ってしまっていた。

ともだちにシェアしよう!