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 正彦はキャバクラの黒服として働いていた。キャバ嬢と客、色んな人間を見ることが出来た。久しぶりと電話をしてきた慶太が、別に好き好んで自分と話してるわけじゃないだろう事は見当がつく。さしずめ自分くらいしか頼れる相手がいなかったんだろう。金か?くらい考えられる頭は持ち合わせていた。だらだらと近況を喋るのも面倒になってきたので聞いてみることにした。 「慶太借金でもあんの?俺にかけてきたのって、そういうことじゃね?」  慶太が無言になって言葉を選んでる様子が伝わってくる。やっぱりそうじゃん。あの施設の中で平和に過ごすために俺に着いてきてただけだろ? 「ま、正くん、確かに俺借金があるんだけど、正くんから借りようとかそんな事思ってかけたわけじゃ…」  「ふぅん。返すあてあるんだな?」 「そ、それは、ないけど……」  電話の向こうで電車が走る音がする。そういやこいつ電車好きなんだったな。少しだけ、あの施設での事を思い出す。慶太が好きだからと、小さい頃踏切近くで二人で電車を見ていた思い出。あの頃は普通に友達同士だった気がする。いつから俺は暴力で相手を従わせるようになったのか…。  施設に住んでるからと言って、親がいないからと言って馬鹿にする同級生達を殴ってきた。あの頃からかもしれない。自分を可哀想だなんて思ってなかった。それを馬鹿にしてきたあいつら。暴力でなら勝てた。殴って黙らせてきた。その方法しか思い付かなかったんだ。 「お前今も電車好きなん?」 「えっ?」 「あぁ、電話の向こうで電車が走ってる音すっからさ」 「あぁ。そうだね、今も好きだよ。勤めてる町工場では電車の部品作ってるんだ」 「へぇ。小さい頃から好きなもんに関わるような仕事してんじゃん」 「関わるって言っても、ほんの小さな部品作ってるだけだよ」 「一応少しでも関わってんじゃん。どっから電車見てんの?」 「職場からうちまでの間にさ、橋の上から駅が見える場所があるんだよ。この部品作ってんだよな~ってたまに見てるんだ」 「へぇ、いいじゃん」 「あっ、すみません、、うわっ、何だこれ!痛い痛い、、正くん、救急車……わっ、うわぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁ」 「慶太どうした?!慶太?慶太!返事しろよ!慶太!」 あちらの状況が分からない。救急車を呼ぼうにもどこに呼べばいいか分からない。もっとハッキリした場所を聞いておけば良かった。  かたっ。スマホが動いた音がする。 「慶太か!?」 「うしろの正面だぁれ」  男か女かわからない声が出て、電話は切れた。

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