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第二の殺人と記憶

『昨日夕方、○県○市の陸橋で……』  今朝も寮の食堂ではどうでもいいニュース番組がかかっていた。  朝はさっさと食べて学校に行くのだから、あまり目をひく番組よりもニュースが最適なんだろう。誰が決めたか知らないけど、ここの食堂は朝は必ずニュース番組だ。  夜来ると、バラエティー番組だったり歌番組がかかってたりするから、早く来たやつが適当に好きなチャンネルをかけてるんだろう。あまり好きなものだの趣味だのなかった俺は見たい番組が分からないから、適当にかかってたのを惰性で見るだけだった。  施設ではテレビがなかったし、毎日勉強して、ここの特待生になって寮に入り、施設から出ることが目標だった。他の事に目を向ける余裕はなかった。たまに思い出す、気になる事と言えば、双子の兄、翠はどうしてるんだろうということ。ここに入る事自体が目標だったから、それが叶ってしまい、今は何も目標がない。兄と再会してみたいって気持ちはある。  母親よりも兄と二人で過ごした時間の方が長いから、今では思い出せるのは翠の顔だ。俺は正直幸せとか楽しいとか思えてないから、兄の翠くらい幸せになっててほしい。次の休みには戸籍を調べに行って、兄の行方の手掛かりを探そうと思う。そのくらいしか生きてる目的が見つからない。  テレビではまだニュースが続いていた。 『亡くなったのは岡村慶太さん二十歳。慶太さんは鋭利な刃物のような物で刺され、亡くなっていました。現場では……』  岡村慶太? 『警察では現場付近で目撃されたという女性が何らかの形で事件に関わっているのではないかと、女性の行方を追っている模様です』  岡村慶大の顔写真が画面いっばいに映り、俺は吐き気を催しトイレへ駆け込んだ。  岡村慶太の名前で自然と思い出す村田正彦の名前。忘れたいのに忘れさせてくれない名前。俺を施設で犯し続けた、女が苦手な体格のよい乱暴な男。思春期特有のニキビが出来やすかったあいつ。   *   *   *  公園のトイレで被害にあった日。舘脇さんちで簡単に傷の手当てをしてもらってから施設に帰った。  舘脇さんが送ってくれて、園長に説明してくれた。その場では悲壮な顔をしていた園長だったが、舘脇さんが帰ってから態度が一変した。 「蒼、お前は余計な事をするからそんな目に合うんだ。厄介な事を持ち込むんじゃない。明日の朝は食堂に来なくよいからトイレ掃除をしてなさい。厄介事を持ってくる者は顔も見たくない。とっとと寝るんだな。無駄な時間使わせやがって」 「はい……。すみませんでした」 園長から優しい言葉なんて出るはずなかった。優しい言葉をかけられるとしたら何かあると思って、いつも以上に神経を研ぎ澄ませておかなければならない。暴力で痛い思いをする時は転び方も気を付けなきゃならなかった。    

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