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ほんの数百m歩いた所にある喫茶店のチェーン店。俺があの家にいて息が詰まった時によく利用する場所。「気分転換に外で勉強するから」と言って、夜ここで勉強してることもある。
義父がいない時は誰にも言わずに出てくるが。
そんなわけで顔見知りの店員が多い。この店舗に初めて入ったんだろう蒼は店内をキョロキョロ見回したり、メニューをじっと見ている。メニューはチェーン店だからどこの店舗も変わらないんじゃないかな。
「蒼はどれ好き?どれでも奢るよ」
「う〜ん。翠はよく来るのか?俺、こういう店初めてだから何頼んだらいいか分からないや。サイズもトール?大中小じゃないんだな」
呆然とした。
普通に毎月お小遣いをもらってこういう店に来るのは自分の中ではごく普通のことだったけど、蒼が育った環境では喫茶店に来ることはなかったんだ……。もっとよく気をつけて発言した方がいいのかもしれない。蒼に劣等感を抱かせてしまったら可哀想だ。
「翠。俺やっぱり見ても分からないから翠と同じのでいいや」
「わかった、注文してくる。一番奥のテーブル席空いてるみたいだから、そこ座って待ってて」
「おう」
列に並んで案内されたのは、顔見知りの店員だった。
「財前くんいらっしゃい。そっくりな可愛い男の子連れてるの見えたけど、もしかして弟さん?」
弟。双子の弟も弟という呼び名に違いないから、そうだよと返す。
「財前くんもカッコいいけど、弟さんも整った顔してるね。そっくり。やっぱりハーフって生まれながらにして勝ち組なんだなぁ」
なんの気なしに言われた言葉にハッとした。
生まれながらにして勝ち組。そんな事は決してない。弟は施設で暮らしていたし、俺も、性的に嫌な思いをしながら生きてきた。
店員さんは何も考えず、ただ見たままの素直な感想を言ってくれただけだろう。
見えている姿が全部を物語るわけじゃないのに…。
多少嫌な気分になりそうだったけど、弟を褒めてもらえたのは嬉しい。
「俺から見ても弟はカッコいいと思ってるんだ。ありがとう」
最後のありがとうは飲み物二つ用意してくれた事に対するありがとうだったけど、聞きようによっては弟を褒められると気分いいんだ?財前くんてプラコン?みたいな感想を持たれるかもしれないなと思った。
どちらでもいい。蒼の見た目が良い事は変わらないんだ。
「お待たせ」
蒼は甘めな飲み物の方が喜ぶ気がしたから、いつも頼むのより甘そうなものを選んだ。サイズは少しゆっくり話せるように、大きめのサイズ。
「ん。ありがとう」
蒼が俺が持ってきた飲み物を飲んでるってだけなのに、見てて可愛いなと思えた。
「これほんとに翠の好きな飲み物?案外甘党なんたな翠は」
「蒼には甘すぎた?」
「別に。出されたもんなら何でも平気だから、旨いも不味いもそんな感じないけど、翠が買ってくれたのだから美味しい気がする」
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