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離れがたい、もう離れ離れになりたくない。
店内で弟を抱きしめるなんて行動をしてしまった俺はその場に居るのがいたたまれなくなって、蒼を連れて出ることにした。
さっきレジで話した顔見知りの店員の女の子に「弟が病弱でさ……退院してすぐで感極まっちゃったんだ。煩くしてごめんね」と伝えといた。
実際煩くしたのは俺と蒼ではなく、俺が蒼を抱きしめてしまった時におきた周りの妙な悲鳴だったのだが。周りの客や店員からも注目を浴びてしまっていた事に、その悲鳴で気がついた。
「そうだったんだ。財前くん、弟くん大好きなんだね。二人とも日本人に見えないしハグくらい普通なんでしょ?気にしなくていいのに」
確かに一緒に暮らしてた時はハグくらい普通だった。寒い日は暖をとるのにお互いを抱きしめながら寝るのが当然だった。
久しぶりに抱きしめた蒼は、小さくて細くて、本当になら双子で同じ体躯のはずなのにと思うと切なかった。なぜ離れて暮らさなきゃならなかったんだろう。二人でいられたら、もっと支え合っていけたのに。あの時、施設に預けられた蒼の手を、泣き叫んででも離さなければ良かったのに。子供ならそれも許されただろう。今は、離れたくないと泣きわめく事は出来ない。
カフェから出たものの、近所は住宅街で、他にあるのは個人経営のレストランくらいだ。ゆっくり座って話せる場所と言ったら、この辺だとカフェか公園くらいしかないのだった。
自宅には、なんとなく呼びたくない。あの家に蒼をあげるのは…蒼を汚してしまう気がする。となると、選択肢は公園しかなかった。
「ごめんね蒼。注目浴びるようなことになっちゃって店内から出る羽目になっちゃってさ」
「別に俺はあのまま居ても良かったんだけど…」
あんまり人の目は気にしないタイプかな?
「俺はあそこの店よく使うからさ。あのままいるのはちょっと…難しかったかな。話したりないからさ、そこの公園寄っていかないか?ベンチでも座って話そうよ」
さっきまで穏やかに隣に並んで歩いてくれてた蒼が嫌そうな顔をした。
「公園苦手って、さっき言ったじゃん」
「あぁ、そういや言ってたね。俺一緒だけど嫌?」
「絶対イヤ。本当は近づきたくもないし、公園なんて見たくもない。翠の家はダメなの?ちょこっと、夕方になるまでとか」
公園は嫌…か。こちらも家に上げるのは、どう考えても嫌だと思った。
「家は無理かな。友達とか連れてきた事もないんだ」
「義父が厳しいのか?」
「まぁ、そんな感じ。お手伝いさんもいるから、蒼連れてったの後から義父にバレると思うしな」
「そうか………」
蒼も、どうしたもんかと考えてるようだった。きっと俺と同じ。久しぶりに再会出来た双子の兄弟と離れがたいんだ。
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