1 / 2
第1話
※この話は、Ⅰ巻終了後の後日談となっています。
ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。
***
夕侑の卒業にあわせて、別荘に会いにきた獅旺はそのまま一週間滞在した。
そして再会の約束をしてから、いったん都内の自分の家に戻ることになった。
「新居を探して、また報告を入れるから、ここを出る準備をしておいてくれ」
「わかりました」
別れの日、獅旺の車の横で一緒に話す。
「どんな家に住みたい?」
きかれて、夕侑は首を傾げた。
「……よくわからないです。普通の家は住んだことがないので」
生まれたときから施設暮らし、その後は寮生活しか経験していない。どんな家と言われてもピンとこない。
「マンションか一戸建て。都内と郊外。海の近くがいいとか、住んでみたい街とか、リクエストはないか」
「お任せします。獅旺さんがいいと思うところで」
その答えに、獅旺が苦笑する。
「わかった。取りあえずの住み処 だからな。まあ、将来的にはまた気に入ったところを探せばいいし。じゃあ、俺が適当に決めておくよ」
「はい。お願いします」
ふたりで住めるのなら、どこだって構わない。笑顔でうなずく夕侑に、獅旺も嬉しそうにした。
「あと、出発する前にこれを」
と言いながら、獅旺がポケットからスマホを取り出す。何をするのかと思ったら、夕侑にカメラのレンズを向けた。
「当分会えなくなるから。写真を一枚、持っていきたい」
「えっ」
「桜もほころび始めているし。記念になるだろ」
夕侑は思いがけない提案に姿勢を正した。
「わかりました」
車の横でシャンと背筋を伸ばすと、獅旺が微笑む。
「普通でいいぞ」
何枚かシャッターを切って、うん、と満足げにする。
「これから毎日、夕侑もここでの生活を自撮りして送ってくれないか。お前が何をしてるのか知りたいんだ。何が好きかとか、何に喜んだとか。そういうのを見てみたい」
「自撮りですか?」
「そう」
ごく自然に頼まれて、夕侑はちょっと考えた。
ともだちにシェアしよう!