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油断大敵な二人の関係
「あ、そうそう。阿川から伝言聞いたか?」
「伝言?」
「ああ、さっきアイツに伝言頼んだんだ。お前に直接いおうとしたんだけど、居なかったからさ。だから代わりに阿川に頼んだんだ。聞いてないのか?」
柏木は隣でそう話すとチラリと見てきた。俺はさっきの事を思い出すと、その場で知らないふりをした。
「――いや、聞いてない。午前中は外回りして外出してたからアイツとは会ってない」
「そうなのか?」
「ああ……」
「まあ、いいや。じゃあ伝えとく。今週の金曜日に仕事終わったら萩原を連れて、いつもの居酒屋に3人で行こうぜ?」
「居酒屋か……。まあ、一応考えとく。でも飲んだついでにキャバクラとかは無しだからな?」
「何、お前それ本気か? おいおいキャバクラは男のロマンだろ?」
「お前と一緒にするな。ホント呆れる。俺、前にも言ったがそういう店とか嫌いなんだよ。どうしても行くなら萩原と2人で行って来い」
そう言ってツンケンした態度で軽くあしらった。
柏木は俺がそう言って返事をすると、不満そうな顔でこっちをジッと見てきた。
「なんで?行こうぜお前も?新たな出会いを求めてさ。店に可愛い娘も沢山いるし、楽しいぞ? それにいつまでも別れた彼女のことを引き摺ってると前に進めないだろ、違うか?」
「……ッ、お前にそんなこと言われたくない。響子の事は口にするな、もう終わったんだ。ほっといてくれ……!」
別れた彼女の名前を突然言われると、脳裏に別れた日のことを不意に思い出した。結婚しようと思った矢先にフラれた記憶。俺には苦い記憶だ。ついでに忘れたい記憶でもある。そんな事を他人の口から言われると、つい感情的になった。
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