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不機嫌な彼。
「――はははっ…。なんだよ、見てたのか? 恥ずかしい所を見られたな。けっこう人目につかないように気を使ったんだがな。ほら、いくら仲が良くても勝手に人の仕事を手伝ったらまずいだろ?それに後で課長に言われるのはあいつだしな」
柏木さんは拍子抜けした声で笑った。俺は全然笑えない状況に無表情で佇んだ。
「柏木さんって優しいんですね。てっきり、女性の人にしか優しくないのかと思ってました」
「おいおい、いきなり冷やかすなよ?」
俺は彼とは違いシビアな目線で話した。彼とは、古い仲だとか前に言ってたけど、油断できない。こういうタイプの奴ほど本当は――。
「――なにはともあれ、柏木さんが手伝ってくれたおかげで。葛城さんの溜まっていた仕事を無事に終らすことができました。遅れましたけどお礼をさせて下さい」
「お、お礼って…!? お前、大袈裟なんだよ。俺はただアイツの力になりたかっただけだ。それに戸田に怒られてる姿なんて見たくないしなさ」
柏木さんはそう言って照れた表情でハニカンだ。俺はその言葉には嘘はないと思った。でも、まだ何か引っ掛かってる気がした。もしかしたら俺の前であえて″気のないフリ″をしてるんじゃないかと思った。こんな時にどうしてなのか、嫉妬のせいで妙な先入観ばかりが先走った。
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