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急接近。
「いえ、迷惑だなんて…――! むしろ、その…。俺なんかに電話番号を教えてもいいんですか? だって俺は貴方の事を――」
「気にするな。それに俺も今まで、お前の番号を知らなかったしな。ちょうど良かった」
「え……?」
「暇な時にイタ電くらいしてやるよ。どうだ迷惑だろ?」
「も~! 葛城さんは素直じゃないな。俺の声が聞きたくて電話をかけるって、素直に言えばいいのに――」
「バーカ、自惚れぬな! おまえなんかイタ電で十分なんだよ。それに会社に行けば嫌なほどお前の顔を見るわけだし。寂しくなんかなるかよ」
「俺は寂しいですよ、いつだって貴方の声を聞きたいです。きっと、俺だけじゃないはずですよ。貴方だって…――!」
「……ったく、子供だな」
「葛城さんまたそうやってはぐらかす……! 俺は貴方を――!」
「おい、バルコニーに出ろ」
「え?」
彼からそう言われると電話を片手に窓を開けると外のバルコニーに出た。不意に下を見ると、1階の出入り口の所に彼が立って居た。携帯を片手に、俺の方を下から見上げていた。
「葛城さん…――!?」
慌てて彼の名前を呼ぶと一階に降りようとした。すると彼はタバコを咥えながら、「じゃあな」と言って優しく笑ったように見えた。
「待って……!」
そこで電話が切れると葛城さんは、そのまま自分の家に帰って行った。彼の優しく笑った顔が俺の心をぎゅっと締め付けると、愛しい気持ちだけが心の中に溢れた。
「ホントにズルい人だなぁ。今すぐ彼を抱き締めたい…――!」
彼の残したサプライズは反則だった。バルコニーの前で座り込むと胸の鼓動が高鳴った。
こんなにも俺の気持ちを乱すなんて。朝日の中、彼の姿が目に焼けついた。さっきの事を思い出すと幸せな気持ちになった。
今まで彼との距離があったが、ほんの少し距離が縮まったような気がした。それだけでも一歩前進だった。
今まで恋愛でこんな感情は無かった。それを彼に恋する事で俺は「本気の恋」を知った――。
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