87 / 126

急接近。

「いえ、迷惑だなんて…――! むしろ、その…。俺なんかに電話番号を教えてもいいんですか? だって俺は貴方の事を――」 「気にするな。それに俺も今まで、お前の番号を知らなかったしな。ちょうど良かった」 「え……?」 「暇な時にイタ電くらいしてやるよ。どうだ迷惑だろ?」 「も~! 葛城さんは素直じゃないな。俺の声が聞きたくて電話をかけるって、素直に言えばいいのに――」 「バーカ、自惚れぬな! おまえなんかイタ電で十分なんだよ。それに会社に行けば嫌なほどお前の顔を見るわけだし。寂しくなんかなるかよ」 「俺は寂しいですよ、いつだって貴方の声を聞きたいです。きっと、俺だけじゃないはずですよ。貴方だって…――!」 「……ったく、子供だな」 「葛城さんまたそうやってはぐらかす……! 俺は貴方を――!」 「おい、バルコニーに出ろ」 「え?」 彼からそう言われると電話を片手に窓を開けると外のバルコニーに出た。不意に下を見ると、1階の出入り口の所に彼が立って居た。携帯を片手に、俺の方を下から見上げていた。 「葛城さん…――!?」 慌てて彼の名前を呼ぶと一階に降りようとした。すると彼はタバコを咥えながら、「じゃあな」と言って優しく笑ったように見えた。 「待って……!」 そこで電話が切れると葛城さんは、そのまま自分の家に帰って行った。彼の優しく笑った顔が俺の心をぎゅっと締め付けると、愛しい気持ちだけが心の中に溢れた。 「ホントにズルい人だなぁ。今すぐ彼を抱き締めたい…――!」 彼の残したサプライズは反則だった。バルコニーの前で座り込むと胸の鼓動が高鳴った。 こんなにも俺の気持ちを乱すなんて。朝日の中、彼の姿が目に焼けついた。さっきの事を思い出すと幸せな気持ちになった。 今まで彼との距離があったが、ほんの少し距離が縮まったような気がした。それだけでも一歩前進だった。 今まで恋愛でこんな感情は無かった。それを彼に恋する事で俺は「本気の恋」を知った――。

ともだちにシェアしよう!