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恋の行方。
「でも、よかった。柏木さんが『早く』帰って。でないと俺、あの人が出て来るのが遅かったら。あの時、殴り込みしに行ってましたから……」
アイツは突然そんなことを言ってくると、その言葉にゴクッと息を呑んだ。
「なっ、何言ってるんだ……? 柏木とはタダの――」
「ええ、わかりますよ。ただの『飲み仲間』で『友人』なんですよね? でも、本当にそれだけなんですかね。俺には到底、信じられませんよ」
阿川は何かを疑うような口調で言ってきた。一瞬自分でもさっきの事を思い出すと、質問に胸の中が揺らいだ。
「ばっ、馬鹿なことを言ってるんじゃない……! アイツとはお前が思ってるような仲でも無ければただの友人同士の関係だ! それなのに何で俺が疑われないといけないんだ……! 陽一はお前とは違うんだ! 同じ『同性』を好きだとか言って、言い寄ってくるようなお前みたいな奴じゃ……!」
ついカッとなると感情的になったまま、目の前で酷い言葉を浴びせた。ハッとなって我に返ると、アイツは傷ついた瞳で悲しそうな表情を見せた。
「あっ……」
「すみません、疑ったりなんかして…――。貴方の交友関係に口出しする権利なんか、俺には無い事ぐらい分かってます。それで、嫌な思いをさせたならごめんなさい……」
阿川は瞳をそらすと一言謝ってきた。謝るのは自分の方なのに、アイツがさきに謝ってきたので余計に謝り辛くなってしまった。
「いや、違う……。今のは…――」
「貴方に嫌われないように気をつけますから、俺のこと嫌いにならないで下さいね……?」
「ッ……!」
アイツは俺が酷い事を言ったのにも関わらず、怒る様子もなく。逆にニコッと笑いかけてきた。その笑顔が何故か切なくて胸が急に痛くなった。自分の胸に突き刺さると、そこで何も言えなくなってしまった。酷い言葉で傷つけた俺にアイツは優しかった…――。
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