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恋の行方。
「泊まって行きます…! 良いですよね……?」
「っ…――!」
その瞬間、胸の中がドキッとした。アイツは俺の質問に戸惑うことも迷うことなく、真っ直ぐな瞳で『泊まる』とハッキリと答えた。一瞬、動揺したのは俺の方だった。アイツのバカ正直過ぎる行動はいつだって俺の『心』を迷わせた。それがストレートだと余計に、アイツの前で戸惑ってしまう。
「わかった、好きにしろ……。ただお前は俺と同じベッドで寝るんじゃなく、ソファーで寝るんだからな! 俺はお前を家に泊めてやるけど、一緒に寝るとは一言も言ってないからな……――!」
そう言って後ろを振り向くと、人差し指は向けてビシッと言い放った。阿川は俺の目の前で、口をポカーンとしたまま佇むと急に笑い出した。
「あ〜わかりました。大丈夫です。どうぞ、安心して下さい。タダで家に泊まらせて貰うんだから大人しくしてますよ」
『わ、笑うなっ!!』
アイツはクスクスと笑うと『あ、すみません。つい…』と言って謝ってきた。一瞬ムカついたが、目の前で無邪気に明るく笑うアイツの顔を見て。何だか怒りが治まると、鼻をフンと鳴らせて顔を背けた。
「も〜、怒らないで下さいよ〜!」
「うるさいっ!!」
「俺ってそんなに貴方に警戒されてます?」
「お前うるさい! 早くさっさと家に入れ!」
「は〜い。わかりました〜」
自分から先に中に入ると玄関の前に佇んで後ろをチラッと見た。阿川は俺の後ろをついてくると一歩玄関に足を踏み入れた。
「じゃあ、お邪魔します!」
アイツが部屋の中に入って来るのを見ると、その時、何故か。アイツに対して、感じていた距離が少し縮まったのを感じた。
「あの……」
「ん?」
「スリッパ借りてもいいですか?」
「あ、すまん……。忘れてた。使っても良いぞ」
あいつに声をかけられてハッと我に返ると、玄関の横に立て掛けてあったスリッパをサッと取って手渡した。
「ありがとうございます……!」
「リビングのソファー、使っていいからな。毛布持ってくる」
少し調子が狂うと、後ろを向いて毛布を取りに行こうと離れようとした。するとアイツが一言、呟いた。
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