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恋の行方。
いきなりアイツに名前を呼ばれて、湯船の中で慌てた。
「あっ! やっぱりな、お前覗きに来たんだろ!?」
その場で怒鳴ると、慌てて近くのタオルを手に取った。するとアイツは風呂場の外から、話してきた。
「違いますよ、覗きに来たならもっと堂々と見に行きますよ。良いからそのまま黙って、俺の話を聞いてて下さい…――」
「え……?」
「その、今日はありがとうございました……。俺、ホントはあの時嬉しかったんです。嘘でもべつに良いんです。それが貴方の『気まぐれ』でも構いません。あの時、俺のことを庇ってくれた貴方が格好良くて、こんな俺なんかの為に、あそこまでしてくれたのがとても嬉しかったんです。いつもは冷静な葛城さんが、あんなバカな真似なんかは絶対にしないじゃないですか……」
『そっ、それは……!』
「それもよりによって、俺なんかを庇ってあんな無茶な事して、人前であんな姿を曝して。いつもの貴方なら絶対にしませんよね?」
「ッ……――」
「それなのに貴方は俺の事を『庇って』くれた。あんな無茶な事までして……。俺、あの時。そんな貴方の姿を見て正直驚いたし、一度だけじゃなく二度、貴方に恋をしてしまった。そして、もっと貴方のことが好きになってしまった…――」
『なっ……!?』
突然の言葉に俺は思わず動揺して、バスタブの中で背中から下に向かってズリは落ちた。そして、急に胸の中がドキドキしてしまった。
「俺なんかの為に、あんなバカな事する人なんて世界中どこ探してもいませんよ。それも他人の為にあんな恥を曝す人はいません。するのは、貴方ぐらいです。でも、それでも俺は嬉しかった……。こんな事言ったら怒るかもしれないけど、貴方を好きになってホントに良かった…――」
「っ……!」
アイツは真っ直ぐな言葉で、素直に自分の思いを伝えてきた。その話を聞かされると、あまりの恥ずかしさに耳まで真っ赤になってきた。
アイツはバカがつく程ストレートで、俺の心をかき乱す。そして、混乱してくる。
何故か今なら、言えそうな気がしてきた。
俺は…――。
「あっ、阿川……!」
「葛城さんお休みなさい」
「っ……!」
名前を呼んだ瞬間、アイツは扉を開けて脱衣室から出て行った。ほんの一瞬だけ、自分のこの『ハッキリしない』気持ちに、答えが出せそうな気がした。でも、そのタイミングを俺は逃してしまった。アイツが出て行くと、ふと冷静になって我に返った。
「ッ…――。危なかった。危うくアイツに告白する所だった。何を考えているんだ俺は………! こんなんじゃ駄目だろ、しっかりしろ! 相手はあの阿川だぞ……!? 俺より年下で、いつも身勝手でお構い無しで、平気で人の心に土足で踏み込んでくるようなあんな奴を……!」
その場で独り言を呟くと、俺は胸の高鳴りを抑えて必死に冷静になろうとした。それなのに胸の高鳴りは静まるどころか余計にうるさく聞こえてきた。
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