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恋の行方。
――風呂から上がるとリビングを覗いた。部屋の電気がついたまま、アイツはソファーの上に横たわって、毛布をかけて眠っていた。俺は、扉の前で黙ってアイツを見ていた。
濡れた髪をタオルで拭くことも忘れて、眠っているアイツを見ようと近くに寄った。阿川は俺の気配にも気づかずにぐっすり寝たまま、寝息を立てていた。
まるでその寝顔が子供みたいだった。俺の前では『男』の顔なのに、今はその反対だった。何故かその寝顔を見ていると胸の中が自然と、安らいできた。
やっぱり、俺は変だ。
さっきもそうだったけど、今も変だ。
きっと俺が変なのは、コイツがいきなりあんな風な事を言うからだ――。
“貴方を好きになってホントに良かった。”
「ッ……」
俺は未だに、お前の気持ちに『答え』を出せていない。
なのにお前は俺に純粋なくらい一途な『愛』を伝えてくる。
こんな俺の事を『好き』だとか、きっと余程の物好きに違いない。出なきゃ、単なる気まぐれの方がマシだ。お前が俺に伝えてくる愛の数だけ、俺は胸が苦しくなってしょうがなくなる。
お前の純粋な愛が、こんなにも俺を悩まして、段々と惹かれてしまう自分が怖いなんて……。
同性愛に疎い俺にとっては、お前はまさに俺の一番の悩みの種だ。自分の人生の中でお前が唯一俺を『心から愛して』真っ直ぐな思いをぶつけてくるんだからな……。
俺はそんな人間 には、一度も会った事が無い。そして、いつかはお前の事を好きになって愛してしまうのかも知れない。その時、俺はコイツの前でどんな顔をしているんだろうか――。
「ん……」
アイツの体から掛けていた毛布がずり落ちると、黙って毛布をかけ直した。
「ったく、やれやれ……。さっきはあんな事言ってきた癖にして、寝るのが早すぎるんだよ。お前のせいで酔が醒めただろ。俺が今、こんなに悩んでるのにホントに自分勝手な奴だな。それにお前、部屋から出ていくのが早すぎるんだよ。あの時、俺はお前に言えたのかも知れないのに…――」
寝顔を見ながら不意に独り言を呟くと、何だかムカついて鼻を摘んでやった。
「ん…信一さん……」
いきなり名前を呼ばれると、ハッとなって指を話した。一瞬、寝たふりをしてるんじゃないかと思ったが、阿川は直ぐに寝息を立てていた。
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