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恋の行方。
「…ったく、ビビらせやがって。寝てるなら寝てるって言え…――! 今の話し聞いてたのかと思ったじゃねーか。本当にお前は油断出来ない奴だな。それに気安く、人の名前呼びやがって……」
アイツは俺がドキドキしている事にも気づかずに呑気に寝ていた。無性に腹が立ってくると足で蹴っ飛ばして起こしてやろうかと思った。でも、アイツが余りにも心地よさそうに眠っていたから起こさずに寝かしてやった。
……俺はコイツが思ってるよりも、酷い人間だ。平気で傷つく事も言うし、傷つけるし、さっきもコイツの事を平気で傷つけた。阿川が俺と柏木の事を疑った時に、俺は感情的になって、あの場で酷い言葉を言った。
陽一はお前とは違うんだ!
同じ『同性』を好きだとか言って、言い寄ってくるような“お前みたいな”ヤツじゃ――!
……ホントは、あんな事を言うつもりは無かったんだけどな。誰にだって言っていい事と、悪い事がある。
俺はアイツが、どんな人間で、同性愛者だと知った上であんな軽はずみな言葉を口にした。あの時、阿川 が、それを聞いてどんな気持ちで居たかも気にも止めないで。
俺って奴は本当、最低だ…――。
こいつの事を傷つけてばかりだ。
あの時も、いつかのいつかも、俺は沢山こいつの事を傷つけた。うんざりされても当たり前なのに、なのに傷つけ分だけ。アイツは俺に優しさで返してくれた。
さっきも酷い言葉を言った俺を責める事もなく優しく接してくれた。俺はコイツの『優しさ』につけ込んで、平気で傷つく事を言うような最低な奴だ。
なのに、何故コイツは俺の事を『好き』だとか『愛してる』とか、平気で言える?
頭がおかしいのか?
俺は、コイツに貰った優しさの分だけ。
何が返せるんだろうか…――。
不意にアイツの顔に触れると、急に胸の辺りがが高鳴った。きっとこれは誤作動だ。でなきゃ、この胸の高鳴りの『意味』を誰か教えてくれ。
眠っている寝顔を近くでジッと見ると、自然に体が動いた。不意に屈むとアイツのオデコにキスした。そして、ハッと我に返った。
「ッ……!?」
――俺とし事が、うっかりこいつのオデコにキスをしてしまった。自分でも今した事が信じられなくなると、慌てて立ち上がって部屋を飛び出した。そして急いで自分の部屋に戻ってベッドに入って眠りについた。布団の中にもぐると、胸の鼓動がやたらうるさく聞こえた。
ホントに俺はどうかしている。
俺は、ますますおかしくなってきている。
それも全部、阿川慶介 の所為だ――!
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