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恋の行方。

――翌日。朝早くに目が覚めて起きると、アイツの気配がないのを感じた。いつの間にか自分の家に帰って行った。俺は寝起きの顔のまま、寝ていたソファーを黙って見ていた。一瞬、アイツがここで寝ていた姿を思い出した。無邪気に寝ていた寝顔を思い出して急に胸が切なくなった。そして、俺がアイツのオデコにキスした事を思い出した。 「……ったく、何だアイツ。人が寝てる間に黙って帰って行きやがって。朝飯くらい食わせてやったのに生意気だな」  そう言って舌打ちをすると、コーヒーを飲もうとキッチンに向かった。確かに俺も人の事は言えないな。前にアイツが寝ている時に黙って帰ったからな…――。  俺とアイツは同じ似たような事をやっている。自分でも呆れるとクスッと笑った。あの時、俺はほんの少しだけ『期待』したんだ。アイツが寝ている俺の部屋にドアを開けて来る事を……。  でもアイツは結局、俺の部屋には来なかった。半分開けたままの扉はそのままだった。そして、すれ違うように朝早くに帰って行った。それが、どん理由でも良かった。『寝ぼけて部屋を間違えた』とか、『一緒に寝たい』だとか、もし開いているドアをアイツが開けたら、俺はこの『思い』にやっと答えを出せたはずなのに。  そこで自分に呆れると、キッチンに立って赤いやかんに火をつけた。そして、インスタント珈琲をコップの中に入れて沸かしたお湯を注いだ。  香ばしい珈琲の香りをそっと嗅いで、冷めないうちに一口飲んだ。そして、マグカップを片手に玄関に行くと朝の新聞を取りに行った。すると、何故かポストの中にあるはずの新聞が無かった。 「あれ、おかしいな?」  探してもどこにも見当たらなかった。アイツが読んだのかと一瞬、頭に浮かぶと再びリビングに戻った。すると案の定、テーブルの上に新聞が開いたまま置かれていた。 「っ、あのバカ……! 勝手に読むのは構わないが読んだら新聞紙くらい畳んで片づけておけ……!」  そう言って居ないアイツに愚痴を溢すと片手で新聞紙を捲った。 「ん?」  捲った新聞の下に、不恰好な形をしたおにぎりがお皿の上に置かれていた。それを見て、思わず驚いた。 「なっ…――!?」  どう見ても、アイツが作ったおにぎりだった。見た目は変な形にはなっているけど、一応食べれそうだった。俺はそのおにぎりを見て唖然とした 表情で見た。こんな事するような柄でも無い奴が俺なんかの為に、一生懸命握って作ったおにぎりに何故か温かな『愛情』を感じた。  

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