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恋の行方。

「アイツ……」  お皿の横に青い紙がそっと置かれていた。不意にそれを手に読んだ。 〃葛城さんおはようございます。昨夜は色々と、ありがとうございました。勝手に来た俺を文句を言いながらも家に泊めてくれて嬉しかったです。あと毛布もありがとうございました。ソファーの横に畳んで置きました。俺、料理とか自分で作るセンスは全然ないですけど、貴方に食べて欲しくておにぎりを作りました。 見た目はちょっと変ですけれど、一応食べれますから安心して下さい。あの時、朝ゴハンを作ってくれたお礼です。それじゃあ、先に帰ります。 P.S.今度は二人だけで飲みに行きましょう!〃  アイツの手紙には、俺への感謝とお礼の言葉が書かれていた。それを読んで何故か、胸の辺りが温かい気持ちになった。  作ったおにぎりは、見た目から形が変だったがそれをアイツが一生懸命作った姿が目に浮かぶと味なんか気にせずに一口食べてみた。  おにぎりの中には、ぶった切った沢庵が3つともくっついたまま入っていた。そして、何故か梅干しも入っていた。全くセンスの欠片も無かったが俺はそのおにぎりを全部残さずに食べた。 「ったく、しょっぱい……。塩とかの入れ過ぎだ。自分で作って味見とかちゃんとしたのか?」  そう言って文句を言うと何故か急におかしくて笑った。 「プッ……! あははは、まったく阿川の奴。顔に似合わない事なんかしやがって本当に…――!」  どうしてなのか、俺は何故かアイツの顔と声が聞きたくなった。こんな思いを、一度もアイツに感じたことが無かったのに。今は何故か自分でも『会いたい気持ち』が胸の中で押し寄せた。 「まったく、本当に……」  俺は自分でも益々どうかしてきている。あの頃よりも、こんなにアイツの事で悩む日が増えた。恋愛でこんなにも、誰かを本気で悩んだ事は一度も無いはずなのに。アイツを通して俺はその事に気付かされた。そして、あんなに赤だった信号が青に変わろうとしている。こんな大切な思いを、アイツに気付かされるなんて…――。  持っていた紙を下に落すと拾い上げた。すると紙の裏側に小さな文字が書いてあった。  〃いつか俺の想いが貴方に届きますように〃   「っ…――!」    純情すぎる愛の言葉に顔が赤くなった。バカがつくほどの真っ直ぐな『愛』に、俺は自分自身の価値観が変わろうとしていた。たった一人の男にここまで悩まされるなんて……。

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