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―彼の想い―(阿川side)

――次の日、外から聞こえる鳥達のさえずりの声で目が覚めた。気がつくと俺は、ソファの上で毛布にくるまって寝ていた。 そう言えば昨夜は彼の家に泊まったんだっけ……。  そこで不意に思い出すと、寝ていたソファから立ち上がってリビングから出ると彼の様子を見に行った。  葛城さんはあの時、俺が強引に押し掛けた事に怒っていなかった。呆れてたけどそのまま、自分の家に泊まらせてくれた。ホントに嫌ならあの時追い返す事も出来たのに……。  それは彼の優しさからなのだろうか。それとも『本心』だったのだろうか?  俺が貴方の事をどう思っているか、本人が一番知っているはずだ。なのに、それなのに。そんな些細な事でも気になってしまう……。  『期待』するだけ跡の虚しさは例えようがない。それなら期待しない方がまだマシだ。一層、突き放してくれたらなのに。それでも俺は、彼の口から答えが聞きたい。葛城さんは俺のことをどう思っているんだろう……。 リビングから出ると、そのまま廊下を歩いて彼が眠っている寝室へと向かった。部屋の前で、扉が少し開いてる事に気がついた。そこで佇むと中を覗いて見た。彼はベッドの上で寝たまま、静かに寝息を立てていた。 「葛城さん、まだ寝てますか……?」 小さな声で話しかけるとベッドの方に近づいた。俺の声に気がつくこともなく。彼はぐっすりと、眠ったままだった。 眼鏡をしていない彼の寝顔は何だか新鮮だった。いつもは眼鏡をしていると、キリッとした感じに見えるのに。今は別の感じに見える。ある意味、そこに胸がときめいてしまう。 彼の眼鏡を掛けていない素顔を自分だけが知っているような特別な気持ちになってしまう。それが何だか嬉しくなった。 朝から自分でノロケてるのも変だが、彼の寝顔を近くで見れただけで幸せを感じてしまうなんて、恋とは不思議だ。  ベッドの脇にしゃがむと、眠っている彼の顔をそっと触れて前髪をすくって髪を撫でた。そして黙って傍で見た。 優しい時間の中で彼の顔をジッと見つめながら、昨夜の事を思い返した…――。

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