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―彼の想い―(阿川side)
気を失っている葛城さんを柏木さんと萩原さんが彼を連れて帰ったあと、俺は同僚と共に課長に連れられて二次会に参加するハメになった。
周りがカラオケで盛りあがっている中、俺は隅の椅子に座ったまま、落ち着かない様子で一人イライラしていた。頭に浮かんで来るのは、あの時の光景だった。ホントは俺が葛城さんを家まで送り届けるはずだったに、それを『邪魔』された。
今頃、彼があの人と一緒にいると思うと嫉妬で頭がおかしくなる。彼に触れて良いのは、俺だけなのに…――。
「ッ……!」
俯いた表情で膝に置いた拳を握りしめると、頭の中はずっとその事だけだった。こんな所でボヤボヤしてたらマズいかも知れない。何せ葛城さんはあのあと気を失ったままだったし。いくらあの人の傍に萩原さんがいたとしても、安全とは思えない。ましてや二人だけになったらもっと…――。
「阿川君、阿川君! どうだ君も一緒に歌わないかい?」
「あ、いえ……。俺は…――」
急に戸田課長に名前を呼ばれるとハッとなった。彼からマイクをススメらると、それをやんわりと断った。課長は残念そうな顔で持っているマイクを引っ込めた。すると隣にいた女性社員の人が『ねぇ、阿川君! 私と一緒にデュエットしようよ!』と言って明るく誘ってきた。
周りは課長の機嫌を損ねないようにと、フォローしているように見えた。周りがそう言った空気になると断ることも出来なくなり、半笑いした顔で話を合わし。歌えざる得ない状況になった。
その場でマイクを手渡されると、彼女と一緒に歌うことになった。幸いな事に流れた曲が自分の知っている歌だったので、皆の前で恥をかかずに済んだ。
彼女の隣で歌いながら、壁に飾られていた時計の針が気になって仕方無かった。正直こんな状況で平然と歌ってられるかと、彼らの前で持ってるマイクを床に投げつけたかった。それくらい今の俺には、自分の気持ちに余裕がなかった。適当に歌い終わらすと周りの隙を見て自分の鞄を持って部屋から抜け出した。
「ダメだ、やっぱり気になる! 今すぐ彼の家に行こう…――!」
抑えていた感情が爆破すると、二次会をすっぽかしてでも彼の所に駆けつけようとした。急いでエレベーターのボタンを押すと来るのを待った。一秒ごとに焦りと苛立ちが高まった。
下からエレベーターが上に到着すると扉が開くと同時に慌てて中に乗り込もうとした。すると、中にいた萩原さんと偶然に鉢合わせした。
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