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―彼の想い―(阿川side)
その時、マンションの入口からあの人が出て行く姿が見えた。俺は一瞬、胸の中がホッとした。
少なくても最低最悪な事態は回避出来た。柏木さんは普通の様子で出入り口を出て外に向かって歩いていた。見た感じからとくに変わった様子は無かった。だけど、彼は後ろを不意に振り向くとマンションの上の階を切ない顔で見上げていた。その表情に、妙なざわめきを感じた。座っていた花壇から立ち上がるとその場から離れて彼の方に向かった。
「あれ、阿川じゃないか――?」
「ああ、良かった。柏木さんが早く外に出て来てくれて……」
「今何だって?」
「でないと俺、貴方のこと殴ってましたから――」
すれ違い際に一言話すと、そのまま相手の顔を見ずに素通りした。柏木さんは俺の方を見て驚くと、振り返って声をかけてきた。
「おい、阿川……! お前、何しに来たんだ!? まさかアイツの様子を見る為に来たワケじゃないよな…――!?」
その一言に俺は後ろを振り返ると返事をした。
「ええ、そうですよ。それが何か悪いですか?」
「ッ……! お前っ!!」
柏木さんは大きな声で怒鳴ると、いきなり掴み掛かってきた。
「何考えてるんだお前、アイツは今まともに誰とも相手に出来ないくらいぶっ倒れてるんだぞ!? それも全部お前の所為じゃないか、何でアイツがお前を庇う!?」
「ええ、知ってます。だからこうして様子を見に来たんです。とてもじゃ、貴方と萩原さんに任せられそうに無かったので――」
「な、何だって……?」
「その手、離してもらえますか?」
動揺する彼を前に俺は顔色も変えずに、冷静に話した。
「言ったままですよ。俺が貴方達二人にあの人を安心して預けたと思いますか? 寧ろ逆ですよ。貴方には俺の気持ちが分からないと思いますけどこっちは真剣なんですよ。だから俺の邪魔しないで下さい。貴方に言いたい事はそれだけです」
「なっ、何言ってるんだお前……!? それにお前二次会どうしたんだよ!」
「あんなのはとっくにすっぽかしましたよ。葛城さんは俺を庇って、あんな無茶な事をしたんだ。だから俺はあの人を看る責任がある」
そう言って話すと彼は驚いた顔をしながら目を疑った。
「……お前だからって此処まで来るかよ? 今何時だと思ってるんだ。アイツは寝てる、お前が来た所でも迷惑になるぞ!」
掴み掛かれた手を振り払うと、鋭い目で相手を睨んだ。
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