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第2話

 お疲れ様です。そう交代のアルバイトに声をかけて裏口から外に出れば、既に空は白んでいた。澄んだ空気が気持ち良い。身体を重くする睡魔を振り払うように、静まり返った道を早足で進む。すれ違う人もほとんどいない早朝も早朝にアパートへ帰宅した相島 和仁は、音をたてないよう慎重に古びた扉を開いて中に入った。電気もついていない部屋は人が起きている気配もなく、ホッと息をつく。毎日のことながらこの瞬間と夜に家を出る時は僅かも気が抜けない。  リビング以外ではひとつしかない部屋でまだ眠っている妹を起こさないよう気を付けながらフライパンをコンロに乗せ、小さな冷蔵庫から玉子を取り出して目玉焼きにする。目玉焼きを皿に盛り付けリビングにある小さなテーブルに置いた。そして時間が無いとばかりに可愛らしい弁当箱を取って大量に作り置きした総菜とミニハンバーグを入れてから米を詰め、冷めた弁当を水筒と一緒にランチバッグに入れた。  できるだけ節約をするために妹が起きてくるまで窓から差し込む光だけで過ごし、扉の向こうからゴソゴソと小さな物音が聞こえてから部屋の電気をつける。もう何年もこんなことを続けてきたが、妹はおそらく気づいていないだろう。 「おはよぅ、お兄ちゃん」  未だ寝ぼけているのか、常よりゆったりとした口調で挨拶をしつつ欠伸を零す妹に和仁は柔らかな笑みを零す。和仁と同じ色素の薄い髪はボサボサで、柄ひとつないパジャマ姿の妹――媛香は、それでも可愛らしく見えるくらい素敵な女性に育った。  大学生である媛香は講義の時間がバラバラなので家を出る時間も一定ではないが、それでも毎朝七時には起きて支度をし、大学生活と少しのアルバイトをしている。妹に苦労などかけさせたくないのが本音であるが、化粧品や服やアクセサリー、女性はとにかく金がかかる。友人とランチやスイーツを食べに行くことも楽しいだろうことを思えば、媛香もアルバイトをしている方が自由になる金があって良いのかもしれない。

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