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第4話
この世界には男女の他にアルファ、ベータ、オメガというバースと呼ばれる第二の性が存在する。それによって当たり前のように運命が変わるのだと人々が受け入れてどれほど経つだろうか。
頭脳も運動能力もずば抜けており、世の中を動かす立場にあるアルファ。可もなく不可もなく、唯一フェロモンの匂いを纏わないベータ。そして、男女関係なく妊娠に特化し唯一アルファを産むことができる、性衝動を誘発させる発情期をもったオメガ。
人口の大半はベータであり、普段生活する中で一般市民がアルファやオメガに会うことはそう無い。だがそれでも国の頂点に立つ三大公と呼ばれる出雲大公、駿河大公、志摩大公をはじめ、社会を動かす中核にはアルファが多く存在し、そんなアルファに愛され、あるいは庇護されるオメガもこの世の中にアルファと同じくらいには存在している。
アルファとオメガは交わりの中で、オメガのうなじをアルファが噛むことによって番関係を結ぶことができ、番ができればフェロモンこそ無くなりはしないが発情期に他のアルファを引き寄せ性衝動を誘発させることもなければ、オメガの発情フェロモンにアルファが惑わされることもなくなる。つまり番関係を結ぶことでアルファもオメガも互いのフェロモンにしか反応することはなくなり、望まぬ交わりを強要される危険性もなくなる。オメガにとっては勿論、アルファにとっても番を持つということは重要なことだった。
アルファとオメガには理性など無くなり出会えば本能で惹かれ合うといわれる〝運命の番〟が存在するが、ただでさえさほど人数の多くないアルファとオメガがたった一人の運命の番を見つけることは非常に難しい。特に上流階級になれば家の為に番関係を結ぶことも多いと聞く。だが例外として三大公はその運命の番でなければ子を成すことが不可能であると、それはこの国に生まれる誰もが知る常識だった。〝アルファの中のアルファ〟と言われる三大公たちの運命を探すためオメガは幼少期に血液検査をすることが義務付けられており、その血液検査で大公の番を探す。そして見事適合した番たちは物心つく前から親と別れ大公邸に引き取られて、そして大公の内向きすべてを管理する元老院によって育てられるのだ。
和仁も媛香も、オメガとして生まれた。大公の運命でなかったのは幸いなのかもしれないが、オメガという性はこの世界を生きるには非常に不便で、発情期の際に服用する抑制剤やもしもの時の避妊薬など高価な薬が必要となり、だというのに発情期が訪れると部屋を出ることさえできなくなるので収入が無くなってしまう。こんな性など無くなってしまえば良いのに、と常々思う和仁であったが、どれだけそれを望んだところで無くなったりはしない。ならば次の発情期が来るまでに少しでも働いて金を稼ぐ必要がある。妹には隠していることが少なからずあることから朝夕の食事と妹が眠るまでは何食わぬ顔でアパートに居るが、それ以外はずっと働き続けていた。
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