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第20話
媛香は幼かったから、知らないのだ。両親の身勝手さも、冷泉家との確執も。和仁がどれほど国光と離れたいと願い奮闘しているかも。だが、媛香は知らなくて良い。すべてを知る必要など、どこにもないのだから。
(夢を見たら良いよ、媛香)
幸せに満ちた夢を。愛すること、愛されることがキラキラと輝いて見えるほどに。もう和仁には見ることのできない夢だから。
どこか微妙な空気が流れたまま終わった夕食の食器を片付け、そして媛香が自室に入って電気が消えるのを待ってから、和仁は鞄の中から通帳を取り出して眺めた。
本当は、引っ越しをする予定だった。もう少しで明子への金をすべて返し終わるから、それと同時に引っ越しをして国光の前から姿を消そうと。けれど国光がお見合いをして番を得たならば媛香に手を出されることも無いだろう。ならば高い金を使って引っ越しをする必要もないし、その浮いた引っ越し代を含めればすぐにでも明子に残りの借金すべてを返済することができる。
借金が無くなって、冷泉家との関りが完全に無くなったなら、あとは媛香が幸せになるのを見届ければ良い。それが終わった後の事は何も思い浮かばないけれど、それはその時が来た時に考えれば良い。
それより、今は少しでも金を稼がないと。いつか媛香が側からいなくなる、その時の為に。
小さく息をついた和仁は通帳を鞄にしまい込み、夜間のアルバイトへ向かうため静かにアパートを出て行った。
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