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第19話

「う、ん……。もしかして、お兄ちゃん国光さんのこと好き、だった? ごめんねッ、嫌な事言っちゃって……」  ポカンと固まって視線を泳がせる和仁の様子に盛大な勘違いをした媛香が慌てたように言う。そんな媛香に和仁もまた慌ててしまった。 「ち、違うッ。そんなんじゃないからッ!」 「え、そうなの? じゃぁ何でそんなに衝撃を受けてたの?」  国光に懸想しているなどというとんでもない勘違いを容認することはできないが、だからといって媛香の覚えていない過去を語る気にもなれない。 「それは、その……」  口ごもる和仁の姿を媛香が静かに見つめ、そしてその視線にどこか哀れみのような色を含ませた。 「ねぇお兄ちゃん。好きなら、好きって言っちゃって良いと私は思うよ。それで結ばれたらとっても嬉しいことだし、駄目だったらさ、私が愚痴でも何でも聞いてあげる。お兄ちゃんは滅多に飲まないけど、お酒飲んで憂さ晴らしするのもたまには良いじゃない。だから、一度国光さんに言ってみたら? 国光さんもよくお兄ちゃんに会いにくるんだし」  機会が全くないわけではないし、足しげく和仁に会いに来ていることを実は知っている媛香は可能性が無いわけではないのだからと思うが、和仁は深く深くため息をついて首を横に振った。 「媛香、本当にそういうのではないんだ。彼に何を思うことは無いし、そもそも住む世界が違う。それに、見合いの話を聞いて少し安心したよ」 「安心?」  なぜ? と首を傾げる媛香に、和仁はただ微笑むばかりで答えを返すことは無い。そんな兄の様子に媛香はどこか納得がいかない表情を浮かべたが、それ以上何かを言うことはなかった。それで良い、和仁はそう思う。

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