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第12話

櫂斗はもぞりと布団から起き上がると、嫌な記憶を思い出したな、と頭を抱える。 あの時、もうちょっと上手く振舞っていれば、と櫂斗はずっと後悔している。しかし高校生の性欲は凄まじく、あのまま我慢ができたのかと問われたら、自信が無い。 性への扉が変な方向に開いたのは自覚がある。櫂斗はあの時の痴漢で、後戻りできない身体になってしまった。 櫂斗はベッドから降りると、朝食を摂るためにキッチンへ向かう。 冷蔵庫から卵とベーコンを取り出すと、フライパンを温めそれらを焼く。そしてそれを二枚のパンで挟んで、千切りキャベツを添えた。牛乳をコップに注ぎ、ヨーグルトも食べる分を器に盛ると、椅子に座ってパンにかじりつく。毎朝のルーティンで無感情で朝食を摂った。 (何か……アイツと接点が無くなっただけで、こんなにも暇になるんだな) 櫂斗はパンを咀嚼しながらそんな事を思う。亮介と会えば大抵はお泊まりコースなので、時間的拘束は長かったけれど、その時間はあっという間だった。 櫂斗がもう会わないと決めてから二ヶ月、亮介からの連絡は来ていない。もう飽きたのか、と櫂斗は思い、彼に出会う前の日常に戻そうとしている。 (けど、ずっと考えてる……) 心の奥底で、彼に会いたいという感情が小さな火となって燻り続けているのだ。そして櫂斗の場合、それは性欲となって現れてしまう。 今日は休みだ、適当な相手が見つかるかもしれない。 「……こんなにしたいの、高校生の時以来だな……」 櫂斗は残りの朝食をたいらげると、出掛ける準備をした。 昼間から何してんだ、とは思うけれど、休日のハッテン場はそこそこ賑わっていた。夜には来られないゲイ向けに、休日の昼間にイベントをやっているバーを見つけ、そこに入る。 「お、可愛い子じゃん、話でもしない?」 入るなり声を掛けられて、その人を見て櫂斗は固まる。それは相手も同じだったらしい、じっと櫂斗を見つめて「まさか」とか言っている。 「こんな所で会うとは。相変わらず淫乱だな、先輩」 「……」 それはお前もだろ、と思ったけれど言わなかった。高校生の時、集団で櫂斗を弄んだ下級生のリーダーだったからだ。 すると彼は櫂斗の頬に触れてくる。優しい手つきにゾワッとし、その手を払った。 「やめろ」 「相変わらずいい顔するんだな。あの時、ずっと俺を見て挑発してただろ」 楽しかったなぁ、と彼は笑う。 「おかげで俺も男に目覚めたんだ。なぁ、また遊ぶか?」 相手、探しに来たんだろ? と言われて櫂斗は顔を逸らした。しかし彼は櫂斗の顎を掴んで、自分の方を向かせる。 「やっぱりいじめたくなる顔だな」 そう言って、キスをされた。優しいそれではなく、無遠慮に唇を吸われ、舌まで入れようとしてきて、櫂斗は逃げようとする。 「おい、ここでおっぱじめるのはイベントのルール違反だぞ」 そこで横から何故か知った声がして、櫂斗は思い切り胸を押して離れた。声の主を見ると、やはりそこには亮介の姿がある。 「お前、何でここに……」 「そのセリフ、そのまま返してやる。俺は主催者の知り合いだ。付き合いで来てる」 二人の雰囲気に、後輩はお前ら知り合い? と聞いていた。それに亮介は鋭い視線を送った。 「お前こそ、コイツと知り合いみたいだったが?」 何故か後輩と亮介は、互いに鋭い視線を送っている。櫂斗は過去の事をばらされたくなくて、どうでも良いだろそんな事、と亮介に言った。 「高校生の時に遊んでやったんだよ。なぁ、先輩?」 「……やめろ……」 櫂斗は視線を落とす。 「あの時みたいに遊ぼうぜ?」 吐息がかかる程の距離で、後輩は櫂斗を挑発した。櫂斗は身体ごと逸らし、拒否をする。 どうしてこうもタイミング悪い事ばかり起こるんだ、と櫂斗は唇を噛む。後輩の口ぶりに、櫂斗の過去に何があったか、亮介は察しがついてるかもしれないと思うと、泣きたくなった。 「お前、名前何て言うんだ?」 「は? ショーマだけど?」 何でそんな事を聞く、と櫂斗もショーマも不思議がる。けれど次の亮介の言葉に、櫂斗の息は止まりそうになった。 「よしショーマ、俺はリョウスケ。三人でホテル行くか」 「は!?」 櫂斗は弾かれたように亮介を見る。しかし彼はいたって真面目な顔をしていた。そして、それを聞いたショーマはニヤリと笑う。 「……アンタもいい趣味してんな。いいぜ……先輩、行くぞ」 「ちょっと! 嫌だ! やめろっ!」 ショーマに腕を引かれ、櫂斗は全体重を掛けて抵抗するけれど、彼の力には敵わなかった。 「大体、オレはもう会うの止めるって言ったじゃないか! 何でこんな……っ」 櫂斗は亮介に向かって怒鳴る。いくらなんでもこれはやり過ぎだと訴えた。 「先生が一方的に言っただけだろ? 俺がまだ仕事場にバラしてない意味、ちょっとは考えたか?」 「……っ」 櫂斗の身体から力が抜ける。確かにもう止めると言ったのは櫂斗だけだ。連絡が無いから飽きたのだと、勝手に思っていたのも櫂斗自身だ。 「……なーんかお前、また似たような事してたのか? ホント淫乱だよな」 ショーマが腕を引きながらニヤニヤしている。亮介との会話で、大体の事を察したらしい。 そのまま近くのホテルに連れられ、部屋に入るなりショーマにベッドに投げ飛ばされた。 「ちょ、本当に……嫌だ! 止めろよ!」 上にのしかかってくるショーマを蹴ろうと膝を曲げると、その上に乗られてそれは叶わなくなった。両腕を押さえられ、首筋にキスをされ思わず首をすくめる。 「俺は見てるから。好きにやりな」 亮介はソファーに座った。なんだ参加しないのか、とショーマは少し残念そうだ。 「お前ホント最低だ!」 櫂斗は亮介に向かって叫ぶと、うるせぇよ、と頬に衝撃が走る。痛みで熱くなる頬に耐えていると、シャツを脱がされ、それで両手を縛られる。 「ホント良い顔……そういう顔されるのたまんねぇな」 ショーマはそう言って、櫂斗の乳首を摘んだ。 「んんっ」 遠慮のない触り方に、櫂斗は背中を反らす。自分の意思に関係なく高められていく性感に、櫂斗は戸惑った。 「お、こんなんでもたつんだな。……ホント変態」 「い、嫌だっ。これは違うっ」 ショーマは櫂斗のズボンのボタンを外し、チャックを下ろす。そこは確かに形を変えていて、櫂斗はカッと顔が熱くなった。 ショーマはそこを形を確かめるように撫でる。櫂斗は嫌なはずなのに、確かに快感を拾っていくそこを見て首を横に振った。 「嫌だ……やめろ……っ」 「とか言いつつ、さっきまでの勢いが無くなったぞ? 感じてるんだろ」 櫂斗の声が震える。唇を噛んで声を上げないように耐えていると、視界の端に、リラックスしながらこちらを見ている亮介が見えた。 「んんっ」 櫂斗の身体がビクッと震える。それがショーマが先端をいじったからなのか、亮介に見られていると意識したからなのか、分からない。 ショーマは下着ごとズボンを脱がすと、櫂斗のモノを手で擦り上げながら、乳首を口に含んだ。 「……っあ!」 いきなりで声を上げてしまったものの、櫂斗はまた唇を噛んで耐える。快感に勝手に動いてしまう身体を見て、ショーマは「しっかりよがってんじゃん」と笑った。 「ほら、リョウスケにお前のイクとこ見せてやれよ」 そう言って、ショーマは櫂斗を激しく擦る。 「んーっ!! 嫌っ! あ……っ」 ガクガクと腰が震え、櫂斗は射精した。肩を上下させて息をしているその間も、櫂斗は亮介の視線を感じ、顔を背ける。 「見るな……っ」 「んじゃ、次は突っ込まれてるところ見せるぞー」 そう言ったショーマは、自分のズボンと下着を下ろし、櫂斗の後ろにあてがってくる。 「嫌だ、嫌だぁぁっ!」 櫂斗が拒んでいるにも関わらず、ショーマは腰を押し進めてきた。圧迫感に声も出せず喘いでいると、全身が震え出す。 「ふ……っ、ん……っ」 「あれ? しっかり感じてんじゃん」 違う、と櫂斗は首を横に振った。亮介は黙ったまま、こちらを見ている。その視線に櫂斗はさらに、震えが止まらなくなった。 「……あ、ああ……っ」 「もしかしてもうイキそう?」 ショーマに聞かれて、櫂斗は首を横に振った。こんな事をされて、気持ちいいはずがないのに、櫂斗の身体は敏感に刺激を拾っていく。 するとショーマは唇にキスをしてきた。先程のとは違い、優しい、けれど確実に性感を高めるそれに、櫂斗の意識は溶けてしまう。 櫂斗の身体の力が抜けたところで、ショーマは動き出した。 「あっ、だめ……嫌だ……っ」 「嫌よ嫌よも好きのうちだろ? 後ろ、ヒクヒクしてんぞ」 「こ、こんなの……っ、何でこんな事……っ」 櫂斗がそう言うと、彼の身体は一気に絶頂へと駆け上がっていく。歯を食いしばってそれに耐えると、息つく暇もなく、再び絶頂の前兆が現れた。 「ま、またイクっ、もうやめて! 見ないでくれ!」 櫂斗は心の中でタガが外れるのを感じた。好きな人の目の前で犯されているこの状況に、ガクガクと身体を震わせる。 「またイッといて、やめては無いだろ。……あー、先輩の中、やっぱり良いわ」 ショーマはうっとりしながら腰を振った。櫂斗は一気に目に涙が浮かび、あっという間にそれは崩壊する。 「……っ、う……」 嫌なのに……嫌なはずなのに感じている自分が自分じゃない気がして、訳が分からず涙を流した。 「許して……もう許してっ、こんなオレでごめんなさいっ」 「許すかよ。先輩のせいで俺は男が好きになったんだから。責任取れ」 止まらない律動に、櫂斗はなすすべもなく堕ちていく。何度も絶頂を迎え、意識が朦朧としてきた。 「もう無理! 無理無理む……っ!」 遠くなっていく意識の中で、櫂斗はまた身体が硬直し、絶頂する。ホント後ろで感じるとか、変態だな、とショーマは笑った。 「ほら、あの時みたいに中に出してやるから、全部受け止めろよ?」 「やめて! 中は嫌! ……っあ! ああああっ!」 櫂斗が意識を飛ばすのと同時に、ショーマの動きも止まった。櫂斗は戻ってこない意識を懸命に手繰り寄せるけれど、そのままストンと意識を失った。

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