33 / 39
第33話 全力で愛してくれ4
夜、櫂斗は風呂から出たタイミングでスマホが鳴っているのに気付く。相手は亮介だ。
「もしもし?」
『……櫂斗? 何か声が疲れてるけど、どうした?』
第一声だけで何で分かるんだ、と櫂斗は思うけれど、本当の事を言うか迷う。
「亮介……早く帰って来てー」
『珍しく弱気だな。何かあったのか?』
優しい亮介の声に、櫂斗は全部話してしまおう、と心に決める。
「実は今日、生徒から……」
『亮介さーん、飲みに行きましょー』
突然、電話口の向こうで甘えた男性の声がした。亮介の舌打ちした音が聞こえる。
『悪い櫂斗、厄介な奴が来た。無視すると面倒だから一度切るな?』
また連絡する、と亮介はそう言うと通話を切ってしまった。
「……ふぅ……」
亮介は亮介で、色々と大変らしい。完全に言うタイミングを逃してしまった櫂斗は息を吐く。
櫂斗は部屋を見渡した。
亮介の家に住み始めて五ヶ月。シンプルなものが好きらしい亮介の好みそのままの部屋は、一人でいると寂しさが増幅されるようだ。
ソファーに座ると、そのまま横になる。
(亮介……)
ここで横になっていると、必ず風邪引くぞ、と声を掛けてくれる亮介。甘い声で囁いて、櫂斗が顔を赤くすることもしょっちゅうだ。
(こんな恋愛するなんて、思いもしなかったのに)
なのに、それが当たり前になっていたのか、離れてみるととても寂しい。自分はこんなに寂しがり屋だったのか、と櫂斗は苦笑した。
「亮介……」
はぁ、と櫂斗は息を吐いて、自分の左手をシャツの下に潜らせる。風呂に入ったばかりだと言うのに、身体が汚れる事をしようとしていて、櫂斗は逡巡するけれど止めなかった。
櫂斗は右手で股間を撫でる。亮介はこうやって、焦らしながら櫂斗が我慢できなくなるまで、優しい愛撫をするのだ。
櫂斗は目を閉じた。
櫂斗の脳内で、亮介が囁いてくる。もう勃ってるのか? 本当に堪え性の無い奴だな、と。
その想像だけで櫂斗はゾクゾクし、下半身は完全に硬くなってしまった。それでも櫂斗は下着の上からそこを撫で続ける。
「んっ……んん……」
敏感になったそこは、撫でているだけでも腰が勝手に動き、鬱陶しくなったズボンを脱ぎ捨てた。
脳内の亮介が言う。
『撫でてるだけなのに、もう先走りで濡れてんじゃねぇか』
もうイクのか? と亮介が強い視線で櫂斗を見てくる。櫂斗は首を横に振った。
「いや……亮介、後ろ……後ろでイキたいっ」
櫂斗は下着を脱ぐと、テレビボードの引き出しにしまってあるローションとディルド型のバイブを取り出す。亮介の家にはそこかしこに大人のおもちゃが収納されていて、いつどこでそんな雰囲気になっても使えるようにと、亮介が言っていた。
それがまさかこんな形で借りることになろうとは。櫂斗はそれらを持ってソファーに戻ると、ローションをたっぷり付けて四つん這いになり、ふーっと息を吐く。
(亮介、早く帰って来て……)
そう願って、櫂斗はバイブを後ろに入れる。当たり前だが温もりがないそれは、櫂斗を少し冷めさせてしまった。
本物がやっぱりいい。櫂斗はそれをすべて押し込むと、ゆっくり出し入れしながら、いい角度を探していく。
「くそ……、何で自分でやるとこんなにもどかしいんだ……っ」
亮介はすぐに櫂斗のいい所を当て、責めてくるのに、と亮介がいかに櫂斗と相性が良いのか思い知らされる。
そして、今まで適当な相手とセックスをしていたので、自慰もあまり必要無かった事にも。
「ん……っ」
やっとの事で見つけた良いところを、櫂斗はしばらくゆっくり責めていく。はぁ、とゾクゾクする身体から息を吐いて力を抜くと、バイブのスイッチを入れた。
「……っ! あ……っ!」
ビクン、と櫂斗の腰が跳ねる。バイブがズレないように手で押さえると、もっと強い快感が得られ、櫂斗はソファーカバーを握りしめ、顔を突っ伏した。
「んっ、んんっ……イク……っ」
そう呟いた瞬間、ガクガクと身体が痙攣し強烈な快感に息が詰まる。しかし相手はおもちゃなので、無感情に櫂斗の後ろを責め続けた。
「亮介……亮介、声、聞きたいっ」
亮介に触られたい、亮介に入れられたい、亮介に……愛されたい。
櫂斗の目にじわりと涙が浮かぶ。虚しい自慰に、櫂斗は半分ヤケになって自身を擦り上げた。
すると、テーブルに置いたスマホが鳴った。亮介からの通話着信だ。
櫂斗は思わずスマホを取って、出る。
『さっきはごめんな。あしらうのに手間取った……櫂斗? お前今何してる?』
さすが亮介、櫂斗の息づかいで何をしているか勘づいたらしい、冷たい声で聞いてくる。その声で櫂斗はイキそうになってしまった。
「亮介……寂しかったから……」
『だから、何してるって聞いてんだよ。ちゃんと答えろ』
櫂斗は尻を高く上げた四つん這いのまま、スマホをスピーカーに変えた。
「オナニーしてる……」
正直に答えると、亮介はああ? と不機嫌そうな声を上げた。
『俺がいない間にそんな事してたのかよ。ホント櫂斗はやらしい奴だな』
声色は冷たいけれど、これは敢えてなのは知っている。櫂斗は恥ずかしくてまたゾクゾクしてしまった。
『おもちゃで満足できたか?』
「全然……」
『嘘だろ、バイブの音も聞こえてんぞ。一回イッた後なんじゃないのか?』
櫂斗はヒュッと息を詰める。何で分かるんだと言うと、やっぱりな、と呆れた声がした。
『今どこでしてるんだ?』
「り、リビングのソファー……」
『……じゃあ、テレビボードにあったやつ使ってんな?』
「うん……でも、全然……イケなくて……」
『当たり前だろ、櫂斗は俺じゃないと感じないんだから』
櫂斗はカッと顔が熱くなった。亮介がクスクス笑う声がする。そして、今どんな体勢なのか聞かれた。
「よ、四つん這いだけど……」
『ん、よし。じゃあそのままおもちゃをゆっくり出し入れして』
「ん……」
櫂斗は言う通り後ろに入ったバイブをゆっくり、出し入れする。
『抜く時に吸い付いて離さないの、分かるか?』
不思議な事に亮介の声を聞きながらすると、櫂斗の身体が小刻みに震えて、すぐにイキそうになってしまうのだ。亮介じゃないと感じないというのは、本当のようだ。
「あ、ダメ……イキそう……っ」
『ダメだぞ櫂斗。まだゆっくり……そこは乱暴に扱っていい場所じゃないからな』
優しく扱え、と言われてその声に櫂斗は反応し、バイブから手を離してしまう。すると櫂斗の後ろは勝手に動き、もっと奥へと咥えこんでいった。
「あ……っ」
『おい櫂斗、おもちゃから手を離すなよ。奥のいい所に当たっちゃうだろ?』
「ダメ……だめ、イク、イク……っ、あああっ」
何で手を離したと分かるんだろう、と思いながら、櫂斗は二度目の絶頂を迎える。それがきっかけになり、櫂斗の身体は貪欲に快感を求めた。
『ああ、本当におもちゃを離しちゃったのか? 櫂斗、気持ちいいだろ』
「ああっ、いい! またイク、またイク……っ!!」
宣言通り、櫂斗はまたガクガクと痙攣して絶頂した。同時に精液と謎の液体も櫂斗の分身から飛び出し、ソファーカバーを汚してしまう。
「あっ、亮介……っ、出ちゃった……っ、精子出ちゃった! ああああ……っ!」
『……俺は電話で喋ってるだけだぞ?』
クスクス笑う亮介。その楽しそうな亮介の声にも反応し、櫂斗は何が何だか分からなくなった。
「だめまたイク!」
息つく暇もなく櫂斗はまたガクガクと身体を震わせる。亮介の声が聞けるだけで、こんなにも自分の反応が違うなんて思いもしなかった。
『程々にしろよ? 俺はバイブ、抜いてやれないからな』
「ん……っ、り、亮介……っ」
『何だ?』
櫂斗は息も絶え絶えに亮介は? と聞く。オレばかり気持ちいいのは嫌だと言うと、彼はまたクスクスと笑った。
『オレは櫂斗の喘ぎ声を聞いてるだけで十分イイぞ。……電話だと見せられないのが残念だな』
本当かどうかは分からないけれど、櫂斗は亮介を想像してまたイッてしまう。
「亮介っ、亮介……っ、好き……っ!」
『ああ、好きだよ櫂斗。帰ったらいっぱいしような?』
我ながら単純だし、こんなプレイでイケるなんて変態だと思うけれど、櫂斗はそれを受け入れてくれる亮介がいてくれて、本当に良かったと思った。そして、もう自分は亮介無しではダメな身体になっている事にも。
「んんんーっ!!」
二度目の射精をしたところで、櫂斗はバイブを抜く。はぁはぁと荒い呼吸を繰り返していると、亮介のクスリと笑う声がした。
『……気が済んだか?』
櫂斗は吐息混じりに返事をする。頭が酸欠でクラクラして、櫂斗はそこに突っ伏した。
『そこで寝るなよ? 繋いでてやるから下、はけよ』
櫂斗はこういう行為をすると、すぐに寝てしまう体質で、それを心配した亮介が声を掛けてくれる。重い身体を動かし下着とズボンをはくと、ソファーカバーも洗濯乾燥機に突っ込むよう言われる。櫂斗は汚れた箇所を予洗いして洗濯乾燥機に突っ込むと、眠気でフラフラし始めた。
『洗剤入れて、ボタン押せたか?』
「うん……」
何だかお母さんみたいだな、とか思いながら、櫂斗の目はほぼ閉じてしまう。
『そこまでできたなら上出来だ。また連絡するよ、おやすみな、櫂斗』
櫂斗は挨拶もできず、朦朧とする意識の中で通話を切った。
ともだちにシェアしよう!