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平日だからって仲良くショッピングしちゃう俺たちって一体?
俺は何しに来ているのかと聞かれれば、服を買いに来ている。
それも、アウトレットモールという、オシャレな場所に、だ。
「平日だからそこまで人がいなくて良かったな」
「だからと言ってこんな場違いな場所に、俺がいていいのか未だに疑問なんだけど……」
「サツキは気にし過ぎ。オタクがオシャレな場所にいてはいけないっていう法律がどこにある?」
「それはない、けど……」
俺、矢車皐月(やぐるま さつき)はフリーターである。黒髪に四角の黒縁眼鏡の目立たないオタクで腐男子だ。対して、隣で爽やかな笑顔を周囲に振りまいている、俺に似ているけれどイケメンオーラが半端ないこの人は、葉柳李月(はやなぎ りつき)で、大学生。
俺がこんな風に言うのも、俺とリツキでは同じ顔のパーツな気がするのに違いがありすぎるのだ。リツキだけがそんなことない、と俺に言い続けているが、それはたぶんリツキだからだと思う。かくかくしかじか、色々と魔法のようなことが重なって、俺はリツキとお付き合いをしている。それすらも夢物語みたいな話だけど、夢だと連発するとリツキが悲しむのであまり口には出せない。彼は何と言っても、俺の妄想から生み出された神様からの贈り物だからだ。
(リツキがやたらと嬉しそうだから、断りきれなかったんだよ……うぅ……)
平日のせいかカップルや家族連れがちらほら通りを歩いているのが見える。
俺たちは最寄り駅からバスで来たのだが、リツキは今度免許を取って車で来ようと張り切っていた。どういう顔をして良いのやら、なんだか落ち着かない。
「サツキ、もっとリラックスしろって。何でそんなギクシャクしてるんだ?」
「だって、ココ、オタクいなそうだし!」
「いいからいいから。俺だって別にブランドショップに行こうだなんて言ってないし。この辺りなら普通に入れるし」
リツキは人目も気にせず俺の腕を取って、店の中へと引きずり込んだ。そこは原色系のどちらかと言えば日本人向けというよりは外国人に向いているのでは?という明るい色の服が男女共々飾られていた。
「これくらいビビットな青とかでもサツキなら映えると思う」
「え?え?何か目が痛い。なんか謎の英語が」
「サツキがいつも着てるTシャツよりはオシャレだし、着やすいはず」
「俺はキャラTとかでいいのに……」
放っておくと芋ジャーを着るから、と、リツキの家では却下されてしまって。いつもきちんとしたパジャマを着せられるか、もしくはTシャツとハーフパンツのシンプルなモノしか用意されていない。これは外出着だと思うけど。ロゴが派手だし、良く分からない。
「リツキは?」
「俺?俺は別に……でもこの色あんまり持ってないから買ってもいいかな」
手に取ったのはブルーグリーンの無地のTシャツだ。何か自分だけ無難なものを選んでいる気がして、俺は対抗して派手めの真っ赤なTシャツを手に取って押し付ける。
「リツキは赤着れば?俺はブルーで」
「うわ……何か信号みたいになるけど。じゃあ、サツキもシンプルなのにしようか」
リツキが何かを納得したのか苦笑して、俺にベージュのシンプルな色のTシャツを手渡してきた。リツキと素材が一緒なので、色違いなのだろう。
「これなら大人っぽいし。サツキも納得してくれる?」
「俺が着こなせるかは知らないけど、派手なヤツよりはまだマシ」
「オッケー。じゃあ、こっちにしよう。ここの店は値段もリーズナブルだから、パンツも一緒に買っちゃおうか」
リツキはそういうとスタスタと店内を歩いて、ゴムのウエストのパンツとやらを手に取った。リツキ曰く、ジョガーパンツと言うらしい。
俺にはTシャツよりは濃いめのブラウン、リツキはグレーのパンツを手に取る。
「俺、似合うかなぁ……」
「気になるなら白のキャップ被ればいいんじゃないかな?で、足元も白のスニーカーとかでいいし。何も考えないで着られるからサツキでも困らないと思う」
「そういうもん?まあ、顔が隠れるなら恥ずかしくないかな」
「それもファッションだから。俺はどうしようかな。首元にスカーフとか巻いてみるか」
リツキは黄色がかったスカーフを見つけると、それも一緒に手に取った。ポンポンとコーディネートしてくるリツキは恐ろしい子だと思う。
(でも、こういう店で洋服選ぶ姿が似合いすぎる……!尊い!)
俺はリツキの姿を見つめていると、周りで買い物をしていた女の子たちがリツキを見つめているのを見つけてしまった。リツキは身長はそこそこだけど、仕草が綺麗だから自然と人目を惹く気がする。俺は逆に猫背だからリツキよりも背が低く見える気がする。
「よし。ここではこのセットでいいか」
「そう、だね。お会計……」
「俺が引っ張りだしたんだし、俺が買ってくるよ……って、どうした?」
「ううん、なんでもないよ。じゃあ、後で払うから」
俺は外で待ってる、と一言告げて店からそそくさと退出した。
やっぱり場違いな気がして、耐えられなくなってしまったからだ。
暫くすると、すぐにリツキがショップのロゴ入りの紙袋を持って店から出てきた。
「サツキ?あぁ……また気にしてる?」
「ほら、リツキは何か目立つから女の子たちが……」
「それもありがたいことだけど……」
リツキがそう言って、俺の頬をムニ、と摘んだ。何かを訴えたくても妙な声しか出なくて、それを笑いながら見ているリツキがいる。
「アハハ!サツキ、可愛い」
「ひゃいおー!」
「あ、ごめんごめん。でもさ、俺が格好良くいたいって思うのは、サツキだけの為だし?だからすぐにいじけるサツキにはお仕置き」
悪戯っぽく微笑むと、リツキは漸く手を離してくれた。俺は頬を擦りながら、ブーブーと文句を言う。
「俺だってイケメンになれたらって思うけど……」
「……それはダメ」
俺の希望を切り捨てるリツキに不満げな視線を向けると、リツキがジッと俺を見つめてきた。
「なんだよ、ダメって」
「ダメに決まってるだろ?サツキがイケメンになったら俺が他の人に嫉妬してサツキを閉じ込めたくなるから」
「な、何その束縛系男子!こわっ!」
「俺、サツキに一途だし」
飄々と言い放つ言葉が本当なのか、嘘なのか。そんなのは――
(本当に決まってる。そう信じちゃう俺も、末期、だよなぁ……)
「あ、サツキ照れてるだろ?」
「違うよ。リツキが恥ずかしいこと言うから、恥ずかしい人と歩くの恥ずかしいって」
「何?もう1回言って?」
「あーあー!もう、いい!リツキはああ言えばこう言う!」
ごめんって!と笑いながら追いかけてくるリツキを振り返って、なんやかんやリツキといるだけで結局楽しくてしょうがない自分に気付く。
「あ、あの店もオススメ!っていうか、バッグも買おう、バッグ」
「ちょっとちょっとリツキさーん!バイト代、全部突っ込む気?」
笑いながら俺とリツキのショッピングはまだまだ続きそうだ。
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