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恋人同士と言えば? 1<ポッキーの日SS>
今日も今日とて、俺たちはお家デートと言うヤツをしている。
いつまで経ってもこのリア充な雰囲気に慣れなくてもじもじしている俺を、微笑ましそうな尊い笑顔で見ているのが、リツキ。俺の恋人だ。
恋人とか生まれて初めてできたので、実感がないままお付き合いというものをしているのに、リツキと来たら積極的に俺を溺愛してくる。
もう、溺愛系なんならちょっと束縛系なんじゃ……。
本人には決して言えないけど。
俺の理想のままのイケメンはまた凄い提案をしてきて、現在フリーズ中である。
「サツキ、おーい?」
「……も、もう一度お願いします」
「だから、ポッキー買ってきたから。ポッキーゲームしよう」
「聞こえ間違いじゃなかったー……何言ってんの、このイケメン!貴方はイケメンですか?ですよね?」
俺は絶賛大混乱中だが、サツキ可愛い、とか言いながら笑顔でポッキーの箱を開けていくリツキ。嬉々としていてもう止め方が分からない。
(誰か助けて!ヘルプミー!)
リビングのクッションの上に座った男が2人。
1人は楽しそうにポッキーを開けて、もう1人は落ち着かない様子であわあわとしている。
何コレ?どんな状況?説明求む。
「リツキさーん!聞いてますかー?」
「ん?聞いてるから。どうした?」
「無理だって!俺、そういうの向いてない!」
「向いてないって……ポッキー食べられるだろ?嫌いだった?」
「いや、それは食べられるけど。そうじゃなくてですね!」
言い訳する俺を無視してさっさとポッキーを咥えるリツキに、俺はどうしていいか分からない。目線で早くーと訴えてきているのも凄く分かる。分かるけど……。
未だにキスだって慣れてないのに、だんだん推しの顔が近づいてくるとか!オタクにはキッツいんだって!
「ムリムリムリ!無理!」
「……サツキ、俺のこと嫌いか?」
「うっ……」
一旦口からポッキーを外したリツキが悲しそうな顔をして俺を見つめてくる。その顔を見ていると、俺が悪いことをしているように思えてきた。
「うぅぅ……分かった。分かったから……俺が、先に咥えるから……」
俺はこの顔に弱いのを知っていてやっているのも分かるけど……。
リツキは毎回、俺しかいないとか、俺だけのだからとか、綺麗な声で囁いてくるし。
神様、本当に彼は俺ですか?と毎回聞きたくなる。
「……ん」
「……サツキ、まだ何もしてないのに顔真っ赤だな」
クスクスと笑ったリツキが悪戯に微笑んで、俺と反対側のチョコレート側を咥えた。
そうだ、目を瞑ろう。
瞑ればドキドキだって落ち着くはずだ。
ゆっくりと目を閉じた。
唇に少しずつ振動が加わっていく。
本来どっちかが折ったら負けとか、そういうものだったのを思い出したけど、とりあえずこのままステイする。
ポリ、ポリ、と、食べ進んでいるような音が聞こえている。
そろそろ折ってしまえばいいと薄っすらと目を開けた。
「………っ!」
緊張しすぎて目を開けるのが遅かったせいでポッキーはほぼ残っていなかった。もう鼻と鼻が触れそうな位置までリツキの顔がある。
辛うじて先だけを咥えている俺はリツキの顔を見たまま動けない。
リツキはゆっくりと口を開いて最後のポッキーを俺の唇ごと奪っていく。
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