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第5話
困惑する神代先輩と場所を移した放課後の屋上。本来は生徒の立ち入りは禁止のはずだが、何故かこの人は屋上の鍵を持っている。
「神代先輩、さっきは助けてくれて有難うございました」
「司くんから聞いたんだ?」
「俺のこと、庇ったって……」
神代先輩は屋上の柵に凭れ掛かり、長い影が俺の足元まで伸びてきていた。
「頭を打ったら危険だからね。寧々も心配していたよ、後で連絡してあげて」
「あ、草薙の連絡先知らないんで……」
「……教えるから」
「はい」
神代先輩は俺がここに呼び出した意図を気付いているのだろうか。横顔に射す夕日が神代先輩をオレンジ色に染めていた。
「俺、司先輩のことが好きでした」
表情ひとつ変わらない。夕日で作られた逆光が表情を分かり難くしているのか。神代先輩は俺に視線を向けず床に落としたまま言った。
「……知ってたよ」
「最初は、司先輩の隣にいる神代先輩のことが好きじゃなかったんだと思います」
「……知ってる」
やっぱり神代先輩には全てお見通しだったらしい。神代先輩が普段と何も変わらない様子で答え続けていたから、俺は思い切って神代先輩に歩み寄って目の前に立った。
「俺、神代先輩のことが好きです」
「………………え?」
「神代先輩のことが好きです」
返事までに間が空いたから聞き取れなかったのかと思い念の為もう一度、今度はしっかりと目を見て伝えた。
「……聞こえてますか?」
いつまでたっても神代先輩が微動だにしないので、二の腕を掴んでさっきよりもっと顔を近づけて問う。
夕日のせいか、先輩の顔が赤い。掴んだ腕がほんのりと熱く感じるのもきっと夕日に照らされ続けているからだろうと思っていると、神代先輩の唇が少し動いた。
「良かった……」
そう言って神代先輩は安心したように小さく笑う。その顔を見て俺は『綺麗だな』と感じた。
指先が触れるだけで意識してしまう程、随分と前から俺はきっと神代先輩のことが好きだったんだ。
――貴方が司先輩の恋人だとは知っていたけれど。
「良かった。嫌われていた訳じゃなくて」
神代先輩はそう言って残酷な程綺麗に笑った。
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