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強盗に入られた時は、マニュアルで素直にお金を渡すことになっていた。 震える手で鞄に詰めている時に、パニックを起こした女性客が叫んでしまい、強盗犯が包丁を振り回したのだ。 緊急事態釦を押してカウンターを飛び越えた時に咄嗟に刺股を掴んでいなければ、もっと大事になっていたと思う。 「刺股使えんの?すげ……」 「うちの母が学生の時に薙刀やってたので、少し……。 その応用みたいな感じで。 秀さんには後で叱られましたけど……」 決して武闘派ではない。 間が悪くて居合わせたお客さんが怪我をするのは嫌だと思っただけで。 パニックに陥った人間ほど厄介なものはない。 刺股の柄で包丁を弾き飛ばそうとした方向に逃げた。 致し方なく壁際に押さえ込んだものの、闇雲に振り回した包丁が床で跳ね、結人の足に当たった。 伝い落ちた血で足が滑り、たたらを踏んだ結人を包丁を拾った強盗犯が刺そうとした所に、秀が駆けつけたのだった。 今思い出しても震えがくる。 「怖くて仕事行くの迷ったりもしました。 でも、秀さんが現場から戻る時だけじゃなくて、普通に立ち寄ってくれるようになって……。 少しずつ、怖さがなくなって……」 「そうなんだぁ……」 二人の馴れ初めを聞き、ほんわりとした雰囲気になった。

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