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第19話(8)

「くっそかわいいですよ」  耳元に口を寄せて囁いてから指を増やす。  さすがにその白濁だけではキツくて、僕は視線を巡らせた。  ポケットにあるサイフにももう携帯用のローションは入れていなくて、残念ながら潤滑剤となりそうなものはない。 「う……っ、はっ……佐倉……」  涙を滲ませた目がこっちを見てゴクッと唾を飲み込む。 「店長、もっと気持ちよくなりたいですよね?忘れたいんだし。でも、ローションないからちょっと待……」 「……ある」 「はい?」  消え入りそうな僅かな声とその言葉に耳を疑った。 「……俺の、部屋……に……んっ」  言いながら顔を隠す店長の腕を払ってその唇を塞ぐ。  愛おしくて堪らなくて……勃たなくなったことに一人で悩んで荒れて、今、掴んだ快楽を求める姿にクラクラした。  ズルリと指を抜くと、店長は切なげに声を漏らしてはぁと吐息を吐く。 「立てますか?床だと固いし……それなら店長の部屋で思いっきり思考吹っ飛ばしてあげるから」  手を引くと気怠げに店長は体を起こして覚束ない足取りで付いてきた。  アルコールがやっと回って思考が薄れているのはちょうどいい。  拒否でも拒絶でもなく、今ためらいつつも求められて……嬉し過ぎて暴発しないように僕はゆっくり息を吐き出した。

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