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すべてを話し終える頃には、ゼレアスは最初とは裏腹に、とても晴れやかに笑っていた。
あまりこういった話は好まれないものなのかもしれない。彼が今までうんと我慢して好きなことの話をしなかったと思えば、そんな様子にも納得がいく。
「……なるほどなるほどー……面白いですね。狩猟かぁ。いいなぁ」
「……や、やってみたいのか?」
「へ? できるんですか? でも僕銃? とか持ってないし……」
「それなら我が家にあるものを貸そう。馬の選び方は知っている?」
「ウ……マ? の選び方? ウゥマを選ぶの?」
「……まあ、乗るために必要だからな」
「……ウゥマに乗る……? 乗ったことないですよ、可哀想だし」
「馬に!?」
ゼレアスの反応は今までになく大きくて、シグラはつい不安になった。
まさか、ローシュタイン伯爵家の次男坊が乗ったことないなんておかしい、と思われるような乗り物だったのだろうか。しまったそれなら話を合わせておくべきだった。それでも中の彼は「馬」になんて乗ったことがないのだから何も言えない。変に強がったほうが後々恥をかく。彼はこれまでに何人もそんな人間を見てきた。
「そうか、ローシュタイン家は乗馬も教えなかったのか……大丈夫だ。俺が支えてやれる。あなたは気にせず馬にまたがっていればいい」
「……あー、え? 待ってください、僕もしかして、一緒に狩猟をするって感じになってます?」
「しないのか?」
「うーん……まあ……」
キューピッドになるには、ゼレアスのことをよく知らなければならない。そうでもなければお相手の男にゼレアスをおすすめできないからである。
(まずはこの人を知るために、時間を取るのもありか……?)
それより何より、シグラは狩猟をやってみたい。話に聞くだけではなく実際に銃を持って撃ってみたいし、罠だって張りたい。そしてそれを捌くことまでできたなら最高だ。
本音はそちらなのだが、シグラは必死に「これは相手を知るためだから」ともっともらしい理由をこじつけると、容易にオーケーの返事をした。
ゼレアスはあからさまに安堵したように胸をなで下ろすと、柔らかな表情のままでカップを持つ。
「それにしても驚いた。まさかあなたが狩猟の分かる人だとは」
「分からない人だと思いました?」
「まあね。あなたは外には出たがらないと聞いていたし、何よりいい噂がなかった。傲慢で高飛車な人だと思い込んでいたから、血生臭いことは嫌っているだろうとばかり」
「なるほどなるほど」
シグラはすかさずメモを取る。
ゼレアスについていけるのは、狩猟を受け入れてくれる人だろう。血を見ても倒れない人、と項目を付け足すと、シグラはうーんと悩むような仕草を見せた。
これを調べるのはいいが、そういえばシグラにはオメガの友人なんか居ない。そういったサロンでもクガイに紹介してもらうかと、目の前のゼレアスのことも放置してそんなことばかりを考えていた。
「その瞳は……」
「はい?」
「いや、瞳の色が変わったと、俺たちの間では不思議だった。以前はもっと薄い色だったと記憶していたから」
「ああ、これ。これはなんていうか……なんか変わったんですよね。なんでだろ」
中身が変わったから、と言ったところで信じてもらえるわけもない。広げるような話でもないし、クガイのように気付く者がいたらその者にだけ説明すれば良いことである。
すっとぼけたシグラの言葉に、ゼレアスはあまり納得がいっていないようだった。しかし踏み込むこともできないらしく、眉を寄せて渋い表情を浮かべる。
「そういえば、ゼレアスはなんで28まで独身だったんですか? モテそうなのに」
「……さっきので分かっただろ。俺は趣味にばかり生きて、異性に気を遣えないんだ。そちらに割く時間があるなら自分が楽しいと思うことをしていたい。これまで婚約者は三人ほど居たが、みな早々に解消された」
「へえ」
微かに頷きながら、シグラは「趣味の合う人」「懐の広い人」とメモに書き足す。
「でも僕と結婚しても子どもは産めませんよ? ゼレアスは侯爵家の人ですし、三男といえど子どもが居るにこしたことはありませんよね?」
「まあそうだな。だがもういいんだ。どうせ俺を受け入れてくれる人なんか居ない。それなら望まない結婚でもなんでも受け入れたほうが家のためになる」
「貴族って大変なんですね」
「……ローシュタイン家も伯爵家だが?」
「おっとそうでした。僕も大変ですよねきっと」
欲しい情報は充分得られた気がする。一度メモを上から見直して、簡易プロフィールが作れるくらいであると確認したシグラは、すぐに紅茶を飲み干した。
「はー、美味しかった。僕これから訓練があるので、失礼しますね」
「……く、訓練?」
「時空間魔鏡耐激発訓練 ですよ。時空の間に入るのに激発の可能性が高く、自分の体が粉々になってしまうリスクがあります。それを、時空間魔鏡という道具を使ってうまくかわすんです。簡単に言うと激発を防ぐための訓練ですね。成功率は10%くらいなのでこれで多くの人間が死にましたし、ほとんどは肉塊になります」
「…………何の話だ?」
「…………ここにはそういったものはないんですか……?」
帰る口実にと前の世界でのことを言ってみたのだが、それはどうやら常識ではなかったようだ。
定められた人間しかそんな訓練はしないために、ゼレアスがやっているとは思えなかったから事細かに説明はしたが……その存在自体を知らない、という反応を返されては言葉を続けることもできない。
シグラは次には誤魔化すように、極力上品な仕草で立ち上がった。
「そうだ。うん、訓練。いや、レッスンがあるんですよとにかく」
「待ってくれ、今の話は、」
「狩猟の日取りはゼレアスに合わせますので、都合の良い日取りでおこないましょう。それでは失礼いたします」
表情にはまったく出ていないが、シグラは内心とてつもなく焦っていた。カクカクとした動きで外に出ると、すぐそこに控えていたクガイとぶつかる。
「終わったんすか」
「うん。ちょっと逃げるように部屋に戻ろう」
「ふはっ、逃げるようにって。なんすか、襲われたんですか」
「そんなことではないよ」
宣言どおり早足で部屋に戻るシグラに、クガイはしっかりとついて歩いていた。
無駄なく自室に戻ってようやく、シグラは体から力を抜く。一息つきたい気分だったからクガイにティーセットの準備を頼んで、やや乱暴な仕草でソファに腰掛けた。
「ん、そうだクガイ。オメガの集まるサロンを知らない? 僕さあ、結婚とか本当遠慮したいから、ゼレアスにはそれとなく誰かいい人を紹介しようと思うんだよね」
「はー、いい逃げ道見つけましたね。まあ知ってると言えば知ってますが……俺の名前が今更使えるかどうか……」
「うん? あ、あとフェロモン抑制チョーカーのことも聞き忘れちゃったから、どうにかならないかな」
「はいはい分かりました。両方お任せください。可愛いシグラ様のお願いですし」
「…………可愛い?」
訝しげにつぶやいて、シグラはすぐにくるりと背後に振り返る。そこにはちょうど窓があり、反射して自身が写っていた。
「可愛いー……?」
これなら前のときのほうが綺麗だった気もするけれど……。
腑に落ちない顔で自身の頬をつねったり伸ばしたり、納得のいかない仕草を繰り返すシグラに、クガイはクスクスと楽しげに笑う。
「まあまあ、いいんですよ。可愛いんすから」
「ふーん? 僕には平凡にしか見えないなぁ……」
金の髪と碧眼、といえば王子様の定番であるのに、シグラには宝の持ち腐れである。お洒落にセットされているわけでもない髪型。大きいわけでもない奥二重の目。輪郭もシュッとしているわけではなく、まさに「ベータ」のお手本と胸を張れる見た目である。
クガイの好みが基準からズレているとしか思えない言葉に、シグラは腑に落ちないながらもなんとか自身を納得させた。
カップが並ぶと、さっそくシグラはそれを持つ。やはりクガイの紅茶は美味い。
「そうそう。お疲れのところ言い難いんすけど、ルジェ・アルフライヤからもデートのお誘いがありましたよ。ぜひ美術鑑賞に行きたいそうで」
「えー。断ろうよー……なんか用事があるとか適当言って」
「そんなことしたら旦那様から雷落ちます」
「えー……あ。でも彼のデータも取らないといけないから、ついでに美術見るのもいっか」
「デートがついでなんすねえ」
「当たり前でしょ。僕の時間は貴重なんだよ」
次の一手を悩んでいる様子のシグラの足元に、クガイが膝をついた。視線が突然合わさって、シグラの思考もピタリと止まる。
「なに?」
「触れても?」
「いいけど……クガイのスイッチって分かんないね」
「はは、俺もそう思います」
クガイの顔が近づくと、シグラは自然と目を閉じる。
唇が触れ合うと同時、クガイはシグラを手際良く脱がせていく。しかしすべてを脱がせるわけではない。肌けさせる程度にとどめて、シャツはボタンを外し、下は前だけを寛げていた。
「ん、ぅ……クガイ、触って……」
「はいはい。……おねだり上手になりましたね」
やや下から噛み付くようにキスをされながら、クガイが触れるところからの快楽に集中していた。胸を撫でて、突起をつまむ。きゅっと力を入れられてしまえば、シグラの体もびくりと震えた。
「ん、も、っと……」
微かに腰が揺れている。緩く熱を持ったそこは窮屈そうに穿き物のの中におさまって、腰が揺れるたびに出してくれと主張しているようだった。
「……口でしますか? 手でしますか?」
「っ……手、でして……口は、こっち」
少し唇が離れると、シグラは開いたシャツの両側を掴み、さらに見せ付けるようにクガイにそこをさらけ出す。
胸の先端の、ぷっくりと膨れた突起が二つ。ピンクのそれに、クガイは思わず喉を慣らす。
クガイは下穿きの中に手を突っ込むと、緩やかにもたげた中心を優しく扱く。すでに微かに溢れていた先走りは、クガイの手の動きでさらに溢れ出していた。
くちくちとそちらをいじりながら、唇を胸に近づけていく。うっとりとした瞳でクガイを見下ろしていたシグラは、唇が突起に触れた瞬間、一際甘い嬌声を漏らした。
「やらしー……」
静かな部屋には、濡れた音と鼻に抜けるようなシグラの甘い声しか聞こえない。
シグラは与えられる快楽に背を反らせると、胸を突き出してさらに快楽を求めていた。
「はっ、あ、もっと……クガイ、すって……」
「はは……あー……俺のも扱いていいっすか」
「ん……ああ、いい、んっ、いいから……」
クガイの手が離れると、快楽も一気に去ってしまう。シグラはそれをもどかしく思いながらクガイを見つめていたが、次にはぽろりと取り出されたクガイの膨れた中心に釘付けになった。
さすがはアルファのモノと言うのか、規格外のサイズである。
シグラのモノとは色も違う。クガイはシグラが釘付けになっていることに気付いていながら、シグラに見せつけるようにそこを握り込んだ。
「……ねえ、シグラ様、これ、挿れてみたくない……?」
先走りを塗り付けながら扱かれて、そこはぐんぐんと太くなる。シグラの反り立つ熱がひくりと揺れた。まるで期待しているかのような反応だ。
「挿れる……?」
「そう、ナカに挿れて……擦るんすよ」
気持ちが良いのか、クガイの表情が快楽に染まる。そんなクガイを見たことがなくて、興奮したシグラは思わず自身のモノに手を伸ばしていた。
「ナカが気持ちいいことは知ってますよね?」
「んっ、あ、うん、知ってる……はぁ、あっ、知ってるよ……」
「あー……エロい顔。見てるだけでイきそう」
クガイは自身のそれを擦りながら、自然と体を伸ばしてシグラにキスをしていた。
シグラは夢中になって自慰をしている。そんなシグラを見ていれば、クガイも止まれるわけがない。
キスを繰り返しながら互いに自慰に耽る時間に、二人はすっかり溺れていた。
「は……イく。シグラ様、ぶっかけていいすか」
「ん、うん……ほしい、クガイの……」
「やらしー」
互いにひたすら手を動かして、快楽を追うことしか頭にはなかった。
気持ちが良くてぼんやりとして、ただ射精をしたいとそればかり。至近距離で見つめ合いキスをしていると、クガイが突然ソファに乗り上げた。するとシグラの目の前に、クガイの膨らんだそれがやってくる。ぐちゅぐちゅと擦られているそこは先端が赤く濡れていて、シグラの興奮をさらに煽るようだった。
「あ、イく、シグラ様、ああ……」
「僕も、イく、あっ、イく、イく、んぅ!」
むわりと、雄の匂いがした。それに吸い寄せられるようにシグラが目の前の熱に吸い付くと、その瞬間にそこから白濁が散る。アルファの射精は長いのか、シグラの顔を白に染めてもなお、体にもそれを散らしていた。
「はー……やべ……それは反則……」
「あ、ん!」
クガイの精液が掛かると、その匂いにシグラも快楽を吐き出した。ゾクゾクと背が震えて、勢いよく飛び出す。クガイの出した白濁と混ざってしまえば、どれがシグラの精液なのかが分からなかった。
「はっ、あ……気持ち、い……」
「シグラ様、先ほどグランフィード侯爵家の御令息が帰られ、」
入ってきたレシアは、その光景に動きを止めた。
ソファに崩れたように座るシグラの前、そこにクガイが片膝をついてソファに上がっている。後ろから見てもクガイのスラックスは緩んでいるし、何よりシグラの中心が出てさらに濡れていることからなにが起きたのかは明白だった。
匂いも濃い。レシアは思わず手の甲で鼻を押さえると、立ち上がって呑気にスラックスを正しているクガイをキッと睨みつけた。
「ヴィンスター! おまえまさかシグラ様を……!」
「違う違う、合意だって。そうですよね、シグラ様」
「ん、ああ……僕が許したんだ」
顔から体までをクガイの精液で濡らされているシグラは、うっとりとしたままで答えた。
まだしまわれていない中心が、レシアの視線の先でひくりと揺れている。それについ見惚れてしまったレシアはハッと我に返り、すぐにシグラに駆け寄った。
「この男に騙されないようにお気をつけください。この男は得体の知れないところがあって、」
「ん、あっ……レシア、優しくして。まだ、気持ちいいから……」
「も、申し訳ございません!」
ひとまず中心をしまおうと、そこを拭っていたときだった。突然シグラの体が跳ねて、レシアは手を止めた。耳の先から真っ赤になり、思わずシグラの痴態をじっくりと見下ろす。
濡れた体が色気を放ち、垂れた瞳でレシアを誘っているようだった。
「……なんだよ、おまえも交ざる?」
揶揄うようなクガイにいつものように返せなかったのも、シグラに見惚れていたからである。一瞬遅れて気付いたが、レシアはうまく言葉を吐き出せなかった。
「……シグラ様、レシアはどう? こいつはオメガだから……シグラ様が突っ込んであげます?」
「僕が……?」
レシアよりも小さな男に、組み敷かれる。そんなことを想像して、レシアの後ろはじわりと濡れていた。
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