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13野外のむつみ
聞こえた言葉がゼレアスが言うにはあまりにも意外なものだったから、シグラはあんぐりと口を開けて固まっていた。
ゼレアスもすぐに口元を押さえる。勢いで言ってしまったのか、自分の言葉に驚いているようだ。
「あ、すまない……違うんだ。ついカッとなって……」
「はい。大丈夫です。びっくりはしましたけど」
「その……嫌なんだ。シグラが執事と関係を持っていることが。だけどあなたを縛り付けて、嫌われたくもない」
「……いえ、正直僕にそこまでされる価値はないので、」
「それは俺が決めることだ」
突然固くなった声に、シグラの背も思わず伸びた。
「……シグラは、俺のことが嫌い?」
「えー、いえ、別に」
「今日は楽しんでくれている?」
「あ、はい。それは意外と楽しいなと」
「意外か」
クツクツと笑うゼレアスは、ずいぶん晴れやかな顔をしていた。
反してシグラは訝しげだ。この話はいったいどこに向かっているのか。シグラの「お断り」は通じたのか。それの判断もできないから、どうすればいいのかも分からなかった。
「あなたは嘘をつかないな。さっきも、言わなければ良かったことを言って、俺を諦めさせようとする」
「快楽主義なのは本当のことで、」
「それでも。……普通はそれを隠すだろ。でもシグラは言ってくれた。嘘の言葉を並べることなく、誠実に俺に向き合ってくれた」
「……まあ、とてつもなく前向きにとらえればそうとも言えるかもしれませんが……」
「俺にとってシグラは理想なんだ。きちんと話を聞いてくれる。俺が楽しいと思うことを否定せず、こうして一緒に楽しんでくれる。たまにドジで危なっかしいところも可愛い。一緒に居られたらと思わないわけがない」
ゼレアスが一歩踏み出して、身をかがめてシグラを抱きしめた。
その腕の中。シグラは顔を引きつらせて、状況をようやく理解する。
まったく伝わっていないじゃないか。
(……どうする。恋愛を強要されるのはごめんだ。僕は自由の身でありたい。今のクガイとレシアとの関係が最高なのに、こんなところで邪魔をされたくない……!)
恋愛なんかいらないから、とにかく気持ちいいことだけしていたい。ここでゼレアスとの結婚が決まってしまえば、クガイやレシアとのハッピーエロライフもすべて失われるだろう。それはダメだ。干からびてしまう。
シグラは己の欲求に素直に向き合うと、ゼレアスを引き剥がそうと力を込める。しかし悲しきかな、体格差というのか筋肉差というのか、思ったよりもゼレアスの力が強くびくともしなかった。
「シグラ。俺が触れてもいいのなら、俺もその輪に入れないだろうか」
耳元で、低い声がささやいた。
シグラは思わず動きを止める。言われたことがよく分からなくて、理解するのに30秒はかかった。
「……え? ゼレアスが? いやでも、さっきはカッとなっただけって……」
「自分の気持ちを一つ一つ確認したら、やっぱりそうありたいと思う。そりゃ、執事との関係は持たないでほしいけど……それでシグラを失うことになるのなら我慢くらいできるよ」
「ダメダメ、ゼレアスは一途な人だって、」
言葉を遮るように、キスで唇を塞がれた。
ゼレアスの顔が近い。それを見つめていたシグラは、やがてまぶたを落としていく。
――まあ、ゼレアスがそれでいいと言うなら、シグラに断る理由はない。
シグラは快楽主義だ。気持ちが良ければなんでもいい。
シグラが委ねたことに気付いたのか、ゼレアスはついばむキスを数度落として、シグラを横抱きに持ち上げた。
「わっ、なにっ」
「気持ちの良いことが好きなら、それに溺れさせてやろう。こんなところで申し訳ないが……俺の味を覚えてほしくて、待てそうにもない」
移動の間もキスをされて、シグラは応えるようにゼレアスを抱きしめていた。
舌が絡むキスが好きだ。あったかくて気持ちが良くて、内側で直接触れ合っている感覚がたまらない。ゼレアスの存在を感じながら唾液を交わして、シグラはさらに求めるように角度を変える。
木陰に座ったゼレアスの膝の上。向かい合うようにして、シグラはそこに座らされた。
「あっ、んぅ、もっと舐めて」
「ああ。……すごいな……」
じゅるりと舌を吸い上げると、シグラの腰が大きく揺らぐ。
ゼレアスはシグラのそんな姿に目を細めて、求められるままにキスを続ける。腰を抱き寄せて、ベストを脱がせた。そうしてシャツのボタンを外し、あらわになった白い肌に喉を鳴らす。
木漏れ日が落ちて、白が映える。しっとりとして触り心地も良く、吸いつく感触にぐっと体が熱くなった。
「……シグラ、ここは」
胸元を撫でていたゼレアスの手が、不意にそこの突起をひっかく。微かな刺激にびくりと震えたシグラは、強請るようにその手に胸を擦り付けた。
ゼレアスの指に、シグラが胸の飾りを押し付けている。その淫猥な光景に、ゼレアスはそこをこねるように押し潰した。
「あっ、ん! ゼレアス……」
「気持ちいいのか。……可愛いな」
こりこりといじめられて、シグラはそのたびに甘い声を漏らしていた。ゼレアスの顔のすぐ近く。その唇を塞ぐように、ゼレアスはふたたび顔を寄せる。
「キスは? ……好き?」
吸い付くように繰り返しながら、ゼレアスが合間に問いかけた。胸の飾りをいじられてうっとりとしていたシグラは、キスをされながらも小刻みに頷く。
するとゼレアスは嬉しそうに微笑んで、角度を変えてキスを深める。
舌が絡めば呼吸が溶けた。ぼんやりとする思考の中に時折、胸の先端からの快楽が電流のように突き抜ける。
「あ、ゼレア……した、も……」
「……限界か」
シグラの下はすでに、苦しそうに張り詰めていた。
ゼレアスがじっくりとそこを見つめながら、焦らすような手つきでベルトを外す。シグラはそれを見下ろしていたけれど、我慢ができなくなったのか、自らゼレアスに顔を寄せて唇を重ねた。
(……すごいな。ここまで変わるのか)
シグラの舌を味わいながら、ゼレアスは着々と下を脱がせていく。
ゼレアスから見て、シグラはやる気のない男だった。
噂に聞いていた男とも違う。噂では傲慢で高飛車で、何もできないくせにアルファとばかり出会いを求める、身の程知らずな男という話だった。しかし実際に会ってみればがっついてくることもなく、見合いに関しては断りを入れられた。
少し面倒くさそうな雰囲気があったから、たぶんそれが理由だろう。手紙にはもっともらしい理由を連ねていたが、本心がどこにあるのかは明白である。
だからこそ淡白なイメージがあり、性的な匂いは一切感じなかった。快楽主義と言われたって正直半信半疑である。
ほんの少しの期待を胸に、逆に攻めればボロを出すかなとも思ったが、どうやら偽りでもなかったらしい。
あの面倒くさそうな男が、快楽にうっとりと浸っているのだ。
「ん、早く……ゼレアス……触って……」
ちゅっ、くちゅ、と音を立ててキスをしながら、シグラが甘いトーンで誘う。
ゼレアスの熱もズクリとうずく。夢中になってキスをしながら、最後には少し乱暴にシグラの中心を取り出した。
「……もう濡れてるじゃないか」
「擦って……お願い……」
「ああ、待ってくれ、んぅ」
感動する暇もなく、シグラにキスで口を塞がれた。
ゼレアスは早々に自身のそれを取り出した。触れられてもいないくせに、シグラの姿を見て勃起したそこである。
舌を絡ませながら、自身のモノとシグラのモノをくっつける。シグラの腰が微かに揺れた。
「は、ぁ……ゼレアス……気持ち、い……」
「あ、おい」
ゼレアスが動かないからか、二人のモノをまとめて掴んでいる手に擦り付けるように、シグラが腰を揺らし始める。
ゼレアスのそこが一気に固くなっていく。先走りが溢れて、どちらのものかも分からないまま混じり合い、手の滑りをよくしている。
「す……げ……あ、シグラ……」
「あん、あ、気持ち、い、ゼレアス、もっと……」
夢中になって腰を振るシグラを、ゼレアスはじっと見つめていた。
ぬちゅぬちゅと先走りの粘ついた音が聞こえる。息が上がって、じわじわと這い上がるような快楽に、ゼレアスも理性の糸が切れそうだ。
「……ゼレアス、後ろ……」
「……え」
「前だけじゃ、足りな……」
「え、あっ、待てシグラ、それは、」
ぼんやりと快楽に耽っていたゼレアスは、一瞬の後にシグラの言いたいことを理解する。
しかし気付いたときにはもう遅い。ゼレアスの手を自身の後孔へと導いたシグラは、その手にピタリと自身の手を重ねて挿れるようにと撫でてうながす。
セックスをするにはそこに挿れることになる。そんなことは分かっていたはずなのだけど、いざそのときになると足踏みしてしまう。
本当にセックスをしていいのだろうか。そんな迷いが生まれると、ゼレアスはふと思い出す。
――シグラは、執事とも関係を持っている。
たとえばここでゼレアスがセックスをしなかったとしたら、シグラは熟れたままで執事のところにいくのだろう。そうして激しく乱れて、甘えるように縋るのだ。今のように甘い声を漏らして、今のように誘う表情を浮かべ、早く挿れてと自らが上に乗って……。考えるだけで気分が悪くなり、ゼレアスはすぐに指先に力を込めた。
「……柔らかいな……」
ゼレアスがほんの少し力を入れただけで、そこはあっさりと指を受け入れた。
想像以上に柔らかい。すっかりセックスに慣れた場所である。
ナカはしっとりと湿っていて、指が奥に向かうたびにうねるように動いている。じわじわと侵食する感覚がもどかしいのか、ゆっくりとした動きに、シグラは切なげに眉を寄せていた。
「ふ、ぅ……ゼレ、アス……もう、いい、挿れて、挿れ……」
「……どこがイイ? 教えて。そこに触れたい」
「あ、ここ……ここ、ぉ……」
ゼレアスの指がうまくそこに当たるように、シグラはぐっと腰を動かす。
シグラの中心がピクリと跳ねた。先走りが微かに散って、ゼレアスの服を濡らす。
「ここか」
嬉しそうにつぶやいて、ゼレアスはそこを重点的に擦り上げる。
「ん! あっ! そこ、イイ、気持ちい、」
ゼレアスは体をしならせたシグラの中心を同時に掴むと、ひねるように扱いて徹底的に追い詰めた。
粘着質な音は、前と後ろ、どちらから聞こえているのかも分からない。ゼレアスは痛くしないように、シグラのよがる表情をうっとりと見つめながらひたすら手を動かしていた。
「可愛い、シグラ……もっと見せてくれ。もっと、乱れて……」
「や、イく、あっ! 出る、ぅ!」
「ああ。イくところも見たい。……イく顔、見せて」
すっかり体を強張らせたシグラに、ゼレアスは触れるだけのキスを落とす。
手の動きは容赦ない。緩急をつけて前を擦り、弱い部分ばかりを刺激する。シグラは這い上がってくる快楽に溺れるまま、体を震わせてゼレアスの手の内に精を吐き出した。
ゼレアスはそれをしっかり受け止めると、手の内に溜まった白濁を塗りつけるように数度そこをしごく。荒い呼吸を吐いていたシグラは突然の快感に、ぐったりとゼレアスにもたれかかった。
「あっ……ゼレアス……イった……から……」
「可愛かったよ」
首筋に顔を埋めているシグラに、ゼレアスは一度ちゅっと口付ける。
そうして自身のモノをシグラの後孔にあてがうと、容赦なくシグラの腰を押さえつけた。
「あ、ぐ……! まっ、イった、のに……!」
「はぁ、すまない、可愛くてつい」
「ん、あ、待って、動いちゃ、だめ……」
「だめか。それは聞けない」
シグラのナカは思ったとおりに熱くて狭い。ゼレアスを柔らかく包み込む肉が、ゼレアスの熱を歓迎するように心地よく食んでいる。
アルファのモノをあっさり飲み込むとは。相手の執事もアルファなのかと、そう思えば歯止めも効かず、ゼレアスは衝動のままに突き上げていた。
「は! あ! ゼレア、」
「イイ、ところ……ここだったか」
そこばかりを突いてやれば、シグラの体から力も抜ける。それを大切に抱きしめて、ゼレアスは唇をひっつけた。
自然と互いの口が開く。舌が絡み、唾液を溶かした。シグラの甘い声がゼレアスに注がれるたび、腰がうずいて仕方がない。何度も繰り返し奥を穿ち、そこから生まれる快感に溶けてしまいそうだ。
動きにくいのが余計に絶妙な快楽に繋がっている。組み敷いてやりたいのにシグラを傷つける可能性を思えばできなくて、ゼレアスはとにかく下から腰を打ちつけ続けた。
「ん、ぅ、あっ、イく、ゼレアス、イく、んっ」
「……ああ……いいよ、シグラ。気持ちがいいな……」
吸いつくようなナカが、ゼレアスを締め付けて離さない。
気持ちがいい。ナカに出したい。そればかりが思考を埋め尽くしている。
ゼレアスの手がシグラの中心に触れた。精液と先走りでどろりと濡れているそこは、滑りやすく扱きやすい。激しい手つきにシグラのナカが締まると、ゼレアスも思わず眉を寄せる。
「あ、だめ、イく! それ、いや、あっ、はっ!」
「はー……すごい。シグラ、イって。気持ちがいいと教えてくれ」
ゼレアスの攻める動きに、シグラはびくびくと震えて精液を散らした。
白がゼレアスの腹に落ちる。しかしそれも気にしないまま、ゼレアスはシグラを見つめていた。
シグラはすっかりとろけていた。快楽主義というのも本当なのだろう。濡れる瞳で、恍惚とゼレアスを見下ろしている。
どちらともなく顔が近づくと、すぐに深く舌が絡む。ゼレアスの濡れた手がシグラの体を伝い、胸の突起をくるくると撫でた。濡れているから感触も変わって、シグラは微かに甘やかに声を漏らす。
「シグラ……動いていい?」
「……へ? あん」
「俺はまだイってないんだ。もっと気持ちよくなろう」
「あ、やだ、これ以上……なんて……」
「大丈夫。……気持ちいいこと、好きだろ?」
奥をえぐられると、シグラの思考が白に変わる。
シグラはこくりと一度頷くと、ゼレアスから与えられる快楽を受け入れるように、今度は自ら腰を揺らしていた。
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