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19温和な仮面の下
「僕はたしかに気持ちのいいことが好きです。気持ち良すぎるくらいがちょうどいいというか、意識なくなるくらいが好みというか、とにかく気持ちが良いことには余念がない。でも相手の数が増えれば頻度が上がって、ただでさえみんな回数が多いのに、僕はもうそろそろ尻が壊れるんじゃないかって思ったりしているんです! なので仲間に入る件はお断りさせてください」
シグラは一息で言い切って、ペコリと一度頭を下げた。
頻度は大問題だ。ここ三日くらいずっとセックスをしているからか、正直日中も腹がうずいて仕方がない。アルファのモノはただでさえ大きく、さらには回数も多いからクセになりかけているのだろう。
このままではセックスに支配されてしまう。正直大歓迎だが、人間としての尊厳がそれを拒否している。
「ああ、言っていなかったんですっけ。私のセックスのこと」
「…………セックスのこと?」
「私ね、挿れるのは一回なんです。それも精子をナカに出すために突っ込むだけで、抜き差しなんかしません」
シグラの頭にハテナが浮かぶ。そんな顔を見ても、ルジェは笑みを崩さなかった。
「さっきも言いましたが、私は相手のすべてが知りたいんです。だからセックスもそれというか……そうだ、試してみませんか、私とのセックス。心配している挿入も一回、ノットまで入れないからリスクも低く、射精の間だけですしきっと楽しいですよ」
ルジェが何を言っているのかはまったく分からなかったけれど、シグラは「挿入しないならいいのかな?」なんて呑気なことを思ってしまって、深くは考えずに頷いていた。
そういえば前の世界に居たときから、彼は深く考えるということがなかった。基本的には流されていればなんとかなることが多かったし、流れに背くことのほうが面倒くさくて、彼の人生もそのままその考えどおりのものだったように思う。
今更「よく考えて」と言われても、もううんと長くそうしてきたのだからすぐには直るはずもない。
彼は決して馬鹿ではなかったのだが、たまにドジで少し抜けていて、そしてかなり騙されやすい男だった。
「……でも、挿入は射精のときだけって珍しいですね」
テラスから室内に戻ったシグラは、さっそく服を脱ぎ始めた。じっと見つめるルジェの視線がやや気になったものの、どうせ見られるのだしと咎めることもしない。
すべてを脱ぎ終わって振り向くと、ルジェが一枚も脱いでいないことにようやく気付く。
「……あれ、ルジェは脱がないんですか?」
「ああ、はい。私はこれでいいんですよ。そのほうがあなた、恥ずかしいでしょう」
「えー、まあ、そうですね。脱いでほしいとは思いますけど……」
多少の羞恥はあるものの、それさえスパイスになると分かっているシグラには強い否定もできない。
ルジェに誘われて、シグラはベッドに連れられた。そうして座らされてすぐ、両手を揃えられたかと思えばあっという間に手枷を付けられた。革製の、手首に傷がつかないようになっているものである。
まさかルジェにこういう趣味が……。痛いのはちょっと……。そんな気持ちを込めてシグラを見上げると、察した彼は柔らかに微笑んだ。
「大丈夫ですよ。痛いことはありません。これは……抵抗されると私が楽しめないので」
「抵抗?」
「さあこちらに横になって。で、ここをひっかけて……」
「わあ!」
ベッドに横になったシグラは、ルジェの手によって拘束された両手を上にあげさせられた。すると、ベッドがひっついている壁から不自然に突出していた杭に手枷の鎖が引っかかる。固定できる位置だったのか、少し力を込めた程度ではびくともしなかった。
なぜこんなところに杭のようなものをつけているのかと不思議だったのだが、こういうことだったらしい。シグラは突然無防備になった自分の格好に戸惑いながら、眉を下げてルジェを見る。
「……な、なに、僕どうされちゃうんですか……?」
「言ったはずですよ。私は、相手のすべてを知りたくなります」
「え、はい」
そう言われても、シグラには何が何やら分からない。もともと彼は痛みには強くないのだ。痛いことを経験してこなかったから、というのが第一の理由である。しかし”シグラ”の体ではそうも言っていられない。きっと普通に痛みを感じるのだろう。
次はどうされてしまうのか。そんなふうに少し怯えた様子を見せるシグラを見て、ルジェは優しく笑うだけである。
やがてルジェは幾分優しい手つきで、シグラの足を持ち上げた。そうして爪先からじっくりと撫で、指の間までを観察して、足首の裏側からふくらはぎ、腿裏へと手を伝う。
「あっ……や、なに……」
「綺麗ですね。……婚活を頑張っていたからでしょうか……肌の手入れも隅々まで抜かりない」
両方の足を持ち上げて見比べては、何度も撫でて確認する。
その手は下腹の際どいところまで触れるのに中心にはまったく触れないし、ルジェはそこを見もしない。足を念入りに確認しては真剣な瞳で見つめて、そればかりだった。
これがいつまで続くのだろう。シグラはルジェの様子を見ながら、早く触れてほしいのにと焦れる気持ちを持て余す。
ルジェが動いたのは、数分後のことだった。持ち上げていた片足の足裏をじっくりと眺めていたかと思えば、今度はそこに舌を這わせた。
「ひあ! や、なに!」
「ああ、悪くないですね。うん」
ちゅう、ちゅっ、と音を立ててキスをしては、唾液をたっぷりとのせた舌で足を舐める。そんなところを舐められたことなんかなかったから、シグラは信じられない面持ちでルジェを見つめることしかできない。
動ける状態であれば全力で拒絶していただろう。なるほどそれで「抵抗されないために」なのかと、この手枷の意味を理解する。
ルジェの舌がしっかりと足全体を舐め尽くすと、今度は反対側の足も同じように舐められた。足を引こうとしても力では敵わなかったから、シグラにはもうなにもできない。
「お、お風呂、せめてお風呂に入りたいです」
「ダメですよ、それだと意味がありません。私は、ありのままのあなたを知りたいんです」
「い、いやだ……」
足が終われば足首、そうしてふくらはぎ、裏膝をしっかりと堪能して、そのまま腿へ。順を追って両脚を味わっていくルジェは、ずっと楽しそうに微笑んでいる。
シグラが視線を落とすと、ルジェの中心がスラックスの中で膨らんでいるのが見えた。手を伸ばそうにもできなくて、足も届きそうにないしと、シグラはおずおずと口を開く。
「勃ってますよ」
「ええ。あなたが美味しいからですよ」
「うっ……あの、早く挿れたほうが」
「私の挿入は一回です」
確かに尻が壊れるかもとか、頻度が問題でとか、そう言ったのはシグラである。それでも生殺しのような状態に耐えられるわけもなく、誘うように脚を開いてみせた。
ゆるりと勃起した中心から、その下にある蕾までもが丸見えだ。ルジェはそこを見下ろして、蕾をじっくりと観察している。
「……い、挿れて、早く……」
今すぐにでも狂いそうなほどの快楽が欲しかった。触れるだけではなくて、思いきり奥を突き上げてほしかった。
そんなシグラに気付いているくせに、ルジェはふっと優しく笑うと、シグラの真上にやってきて優しくキスを落とす。
触れるだけのものだ。すぐに離れて、今度は首筋に舌を這わせていた。
「ぅ、あ、ルジェ、」
「魅力的なお誘いですが、私はそっちの快楽には興味がなくて」
「……ん、え?」
ルジェの吐息が近くで聞こえる。首をすべて舐めたかと思えば、今度は鎖骨へ移動し、そうして肩、脇まで舐められた。
「やだ! あ、お風呂にも入ってない、のに……!」
「だからいいんでしょう。これが、あなたそのものです」
舌と手が身体中を這い回る。唾液を塗りつけて、時には感触を楽しむように甘く噛み、ルジェはうっとりとした瞳でシグラの体を見つめる。
ルジェの舌先が胸の飾りに触れると、シグラの体が大きく跳ねた。普段であればそんなにも敏感にならないのに、ずっと舐められていたからだろうか。全身の神経が敏感になって、どこもかしこもピリピリとしているようだった。
「あ、ルジェ、そこ……触って……」
「ん、ここですか。……いいですね。色も綺麗で、感度も悪くない。どれほど可愛がられてきたんですか?」
「ちがっ、ん! いっつもは、こんなに……」
じゅるりと唾液を吸い上げる音がすると、シグラの背が大きく反る。
胸の先から体に深く響く。シグラの中心はすっかり震えて、触れられてもいないのに先走りがとろりと垂れていた。
「舐めるだけでいいんでしょう?」
「う! あっ、ちが、やだ、ん!」
吸い上げたかと思えば優しく舐める。強めに噛んで痛くするくせに次には指の腹で撫でるものだから、普段とは違う快楽がシグラを襲っていた。
もっと焦らしてほしい。もっと舐めてほしい。もっと噛んで、もっといじめて気持ちよくしてほしい。そんなことを思ってしまうくらいには、この快楽に魅入られている。
「はぁ……私も昂ってきました」
胸の飾りを舐めながら、ルジェは自身のそれを取り出す。
すっかり勃起したアルファの立派なそこ。シグラはそれを見下ろして、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「あ……挿れて……」
「だめですよ。ほら、見てください」
ルジェがシグラの胸上に乗り上げると、勃起した先端を胸の飾りに押し付ける。
先っぽの割れ目に、固くなって主張していた胸の突起が触れた。そこをずりずりと先走りを塗りつけながら擦り、まるでセックスでもしているかのように動かして、ルジェは気持ちよさそうに腰を振る。
「は、ああ、気持ちがいい。……いいですよ、シグラ。見えますか、あなたのいやらしい乳首が私に擦られているところ」
「あ、う、や、やめっ……」
「可愛らしい表情です。ああ……我慢ができません。一度出しますね」
ずりずりと先走りを塗りつけるように、先ほどよりも速度をあげて律動を繰り返す。
近くで見ると本当にグロテスクだ。アルファのモノは特に大きくて、先端の赤い膨らみがやけに生々しい。血管が浮き全体的に太くて、こんなものがナカに入っていたのかと思ってしまえば、シグラは自分の後孔が心配になった。
濃い匂いがする。雄の匂いだ。夢中になって擦りつけているそこをとろけた瞳で見つめていると、ルジェが限界を迎えたのか、そのまま白濁を吐き出した。
シグラの顔から首元、胸にまでそれが飛び散る。量が多く、抵抗もできず、シグラは大人しく目をとじてそれを受け入れていた。
「は、あ、はぁ……さて。どれほど熟れましたか?」
胸上からおりたルジェは、今度はシグラの脚の間に腰を下ろした。
勃起して先走りを溢れさせているシグラの熱がある。そこを満足そうに見下ろすと、ルジェは唾液をたっぷりとたらす。
「あっ……や、ルジェ……」
「素晴らしいですよ、シグラ。こんなになって……あなたのここは、どんな味がするのでしょうね」
「う、あ……」
「よく見ていて」
ルジェが舌を伸ばして、そこに顔を近づける。ゆっくりゆっくりと下がっていく顔は、その舌先がそこに触れる直前で一度ピタリと動きを止めた。
「あ、あ、ルジェ……は、早く……」
泣き出しそうに眉を下げたシグラは、瞬きも忘れて見入っていた。
もう限界だった。シグラだって自慰をしたかったのに、動けないからなにもできない。舐められて焦らされてすっかり体は熟れているのに、刺激だけが足りないのだ。
早く決定的な刺激を与えてほしい。早く触れて、早く射精したい。その一心でルジェを見つめていると、ルジェは一度嬉しそうに微笑んで、シグラの熱を一気に喉の奥までのみ込んだ。
「ふ! あ! っ、ぅう!」
ビクビクとシグラの体が大きく跳ねる。
うずいていた射精感が一気に解放されて、その勢いでルジェの口にすべてを吐き出してしまった。
「あ、うっ、はっ……ルジェ……や、やだ……気持ち、い……」
シグラの精液をすべて飲み干したルジェは、音を立てて一度そこを吸い上げた。
「ひう!」
「まだ終わっていませんよ」
シグラの膝裏を抱えると、ルジェは自身の目の前に現れた蕾にも唾液をたらす。すでに赤く腫れぼったくて、綺麗に縦に割れた蕾だ。
「すごい、こんなに使い込まれて……アルファの匂いがしますね。今朝もしていたんですか?」
「あっ……ク、クガイが……」
「クガイ……? ああ、あなたの執事ですね。なるほど、疑っているわけではありませんでしたが、執事とも関係を持っているというのは本当だったということですね」
表面をべろりと舐められて、シグラの膝が揺れた。
「い、挿れて、ルジェ、ナカ、奥ぅ……」
「言ったでしょう、ここの快楽には興味はありません」
ルジェの舌が、蕾を割いてナカに入る。その今までにない感触に、シグラも目を見開いた。
「あ、わ、なに、なんでそんなこと、」
「すべてを知りたいんです。あなたのこと、あなたの味、ナカのことも、すべて」
じゅぽじゅぽと舌が動くと、えも言われぬ快楽が全身に広がっていく。
ルジェの指がシグラの中心に絡みつき、上下に激しくそこを扱いた。容赦のない舌と手。その動きに翻弄されて、シグラはガクガクと腰を震わせる。
「は、あ! あ、だめ、イく、だめ、イ、く!」
「ん、いいですよ、はぁ、後ろも美味しい」
ルジェがさらに追い詰める。ナカは奥を探る動きに変わったし、手は先っぽをこねたかと思えば小刻みに全体を扱いている。
射精したい。出したい。気持ちがいい。もうイきたい。そんなことに脳内を支配されて、シグラは頭を大きく振る。快感を少しでも逃したかった。けれどどうにもできなくて、その思考に囚われたまま盛大に白を撒き散らした。
「あ! ああ! い、く……!」
「上手に出せましたね」
すべてを吐き出して、シグラの体からは力が抜ける。ルジェも後ろを舐めるのをやめて、シグラの体をゆったりと横たえてくれた。
しかし。
シグラの中心を掴んだ手だけは離れることなく、体勢が落ち着いてすぐ、ふたたび上下に動き始めた。
「あ、え? まっ、イった、イったから、」
「ええ、大丈夫。まだ出ます」
下腹が震えて、力が入る。濡れた音が届き、先ほどまでとは違う快楽がシグラを襲う。リズムよく動くその手に追い詰められて、二度目の射精は早かった。
「あ! はっ、あ……イっ、た……?」
量はないが、微かに射精したようだ。少し残っていたのかもしれない。これで終わる、と安堵したのも束の間、ルジェの手がまた動き始めて、シグラはすぐに体をよじらせた。
「や! むり、無理です! やめて! イったのに!」
「大丈夫ですよ」
「無理、嫌だ! これ、やだ……!」
ただでさえ二度も立て続けに射精して、シグラのそこは敏感になっている。息がかかることにすら快感を覚えてしまいそうなのに、さらに擦られてはたまらない。
ルジェの手は、赤く膨らんだ先っぽを入念に擦っていた。敏感なところだけをせめ立てられて、シグラはさすがに行き過ぎた快楽から逃れようと腰をひく。けれどルジェは逃さない。シグラをしっかりと押さえつけて、悶えるシグラを楽しそうに見つめながらそこを小刻みに扱き続けていた。
「あ、ぐ! や! あ、ああ……や、漏れ、ちゃ、」
「ああ、たまりません。私も……」
シグラが悶える姿を見下ろして、ルジェは自慰を始めた。
しかしシグラにはそんな状況も分からない。体に力が入り、その快楽から自然と腰が浮かせてしまう。ルジェの目の前にそれを突き出すような姿勢で、シグラは震えるばかりだった。
「あ、あ……や、で、出る……おしっこ……漏れちゃ、」
「はぁ、出してください。見せて……あなたがあられもなく、吹くところ」
「イく、イくイく、いや、で、るぅ!」
プシッ! と、シグラの先端からは透明の液体が勢いよく飛び出した。それを出しながらシグラは大きく腰を揺らして、体のすべてを震わせている。
その液体はルジェを濡らし、そしてルジェの手元にも落ちた。自身を扱いていたルジェは、自身の先走りと混ざったことに興奮したのか、すぐにシグラの腰を捕まえて膝立ちに構える。
「シグラ、私もイきます」
ルジェの太い杭が、一気にシグラの奥に刺さる。
シグラはさらにびくりと震え、後ろをきつく締め付けた。快感が走る。頭がさらに真っ白に変わる。
ルジェは奥で射精をすると、すべてを出し終えてすぐ、それをずるりと引き抜いた。本当に射精のためだけに使用したようだ。終われば興味もなさそうに、名残惜しさもなく出て行ってしまった。
「あ、う……はっ……あっ……」
ビクビクと断続的に跳ねているシグラに、ルジェは慈しむようなキスを落とす。
シグラの体は、ルジェと自身の精液、そして先ほど吹いた潮でぐちゃぐちゃになっていた。
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