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出会い

「ナオー!!早く起きないと間に合わないわよー!!」  薄暗い部屋の中。  重い頭を揺すり起こして、頭上の時計に手を伸ばした。  そうしてそこに印された時間を見て軽く舌打ちし、ジャージを脱ぎながらゆっくり階段を降りていく。 「あー!また裸でおりてきてる!もー汚い」 「バーカ」  途中、すでに制服に着替え、歯磨きをする妹のユウからすれ違い様に罵声をうけた。まあ、これが我が家のいつもの光景だ。  ユウに悪態をつきつつも、洗面所で顔を洗い、両手で顔をパシリと叩いて気合いをいれる。  次に棚の上に並んでいる自分専用のワックスで髪を整える。いくら直しても直毛なこの髪は、毎朝かなりの強敵だ。  いつもより気合いをいれて流れをつける。 「ナオ!!早くしないと……」 「っせーなー!今用意してんだよ!」  今日は高校の入学式。  俺が入学するのは並の並。普通の学力があればいけるような平凡な高校。有名なものはないし、何か特徴があるワケでも…ない。  あ、でもなんか一部のスポーツはけっこう強いって聞いた事がある。確か、バレー部だったかな。でもまぁ、俺はバレーなんて興味ないし、中学でも部活は帰宅部だった。  だから俺がこの高校で目指すことはただ一つだけ。  かわいい彼女を見つけて、幸せな青春をすごす。  自分で言うのもなんだけれど、俺はそれなりにモテるし、中学時代にも一ヶ月と彼女がいなかったことはなかった。  だってやっぱり健全な一男子だし。異性が気になるなんてのは普通のことだろ。  友達なんて気の合う奴らといられればいいし、勉強なんてする気もない。親には安定した職業につくためにとか、大学を見据えてとか、いろいろうるさく言われてるけれど、今から先のことなんてわからない。  だから正直、高校なんてどこでもよかった。  ただ、明るく楽しく過ごせればそれでいいんだ。  でもまあ……やっぱり初めは肝心だし。  鏡に映る、男にしては少し線が細いと言われるけれど、整った部類に入る容姿をじっと見て笑ってみる。 「……マジ、キモいんだけど」    背後で究極に冷めた目で見ているユウの存在は無視をして、もう一回ワックスを少量指につけて前髪を少し持ち上げる。  指先でつまんで最後の仕上げだ。 「こんなもん……か」 「全然変わってねーし」 「うるせえ、早く行けよ」 「あんたが邪魔で行けなかったの!」 「ああ、それはすみませんでしたね…。ほんとお前はさー」 「ナオッッ!」  溜息をついて男勝りの妹に1言説教をしようとしたところで、母親の声が家中に響き渡った。 ✳  さわさわと緑の木々が風に揺れる。  明らかに遅刻間違いないこの時間。まわりの新入生らしきやつらがちらほらと走る中、俺は焦ることなくゆっくりと校舎までの道のりを歩いた。  まあ、集合時間から入学式までは1時間もあるし、そんなに焦る必要もないだろ。それに、遅れていったほうが慣れた奴らもいない中で無駄にソワソワした時間を過ごさなくてすむし、気も楽だ。  そんな思いをめぐらせながら、校舎に入って指定されてある教室へと向かう。 「遅れましたー…………?」  勢いをつけて扉を開ける。  開口一番謝る俺に、きっと周りの視線が集中する……なんて予想は見事にはずれた。  誰もいない教室の中は静まり返っていたのだから。    いや、違った。  いる。1人だけ。  奥に誰かいる。  窓際に体を乗り出して座っている人物が。  そいつは俺の視線に気付いたのか、グラウンドに向けていた視線をずらし、ゆっくりとこちらに振り返る。 「……誰?」  切れ長の瞳に筋の通った鼻。  短めの髪の爽やかな容姿。  朝日に照らされた姿は絵になっていて思わず一瞬見とれてしまうほどだ。  これが  俺とイヅルの出会いだった。

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