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出会い②
「いや誰って……お前こそ誰だよ」
素直に名前を言いそうになりぐっとこらえた。聞きたいならまず自分から名乗るだろうが普通。
それにそいつはあまりいい第一印象じゃなくて。不良ってわけでもなさそうだけれど、切れ長の瞳のせいかやや怖そうな印象を受ける。
窓際から背を離したそいつが、ゆっくりした歩幅でこちらに近づき、ある程度の距離をもって立ち止まる。
そして、その爽やかな顔を彩る切れ長の瞳を細くして笑った。
「俺は居鶴ハルカ(いづるはるか)」
「……日向尚(ひなたなお)」
その静かに笑う瞳は悪意のない子どものようで。
その笑顔に見た目よりは話しやすい奴なのかもしれない、なんて思った。警戒心が少し和らぐ。
「えーと、ほかのヤツらは?」
「あー、体育館じゃね?入学式始まってるし」
ソイツ……イヅルは自分は関係ないとでも言うような涼し気な顔をしてさらりと言った。
「……んで、お前は?」
「お前じゃなくて、イヅルハルカ。俺もさっき来たトコ。お前もしょっぱなから遅刻だろ?
これから同じクラスなんだし、仲良くしよーぜ、日向。よろしくな」
怪訝な顔をするオレをよそにイヅルはいたずらっぽく笑った。
それは先程までの近寄り難い雰囲気と全く違っていた。
「お前……じゃなくて、居鶴くんも遅刻?」
「イヅルでいーって。あー……まぁ、な」
「入学式まで1時間余裕あったはずじゃ……」
「直前に式の短縮により開始時間を早めますって連絡きてたぞ。知らねぇの?」
「まじかよ……」
そりゃ母ちゃんが朝から急がせるわけだ。
時計をみるとすでに15分は経過している。……マズイ。あれだけ反抗しといて結局入学式から遅刻だなんて、帰ったら大目玉間違いなしだ。
「今から行くか……」
「いやー、もういいんじゃね?これからいったら変な意味でかなり注目の的になるぞ」
「そうだよなぁ……あーーーー」
こんなつもりじゃあなかったのに。
初っ端からやらかしてしまった。頭を抱える俺とは別に隣にいるイヅルは涼しい顔をしている。
……なんでこいつはこんなに余裕なんだ?
その横顔をじっとみているうちに、だんだんと自分も大丈夫じゃないかという気になってきた。それに、今知りあったばかりのコイツーーイヅルは、見た目は少し怖そうだと思ったけれど、よくみればパーツは整っているイケメン顔だ。
多分……いや絶対、モテるし、可愛い彼女とかいそう。仲良くなれば紹介してもらえるかも。
イヅルと仲良くなって損になるコトはなさそうだ。
そんな邪な考えを気づかれないように、開き直ってイヅルに話しかける。
「もー仕方ねぇか。みんな帰ってくるまで時間あるし。自己紹介でもする?」
「2人だけで自己紹介?なんだよそれ」
「いいじゃん暇だし。あ、番号まず教えて。んであとラ○ンも。なんかSNSはやってる?やってたらIDも。あと出身は?」
「いや、ちょっと……多すぎて最初の質問忘れたわ。なんだっけ?つーかお前って面白いな」
「よく言われる」
くく、とイヅルが笑い、俺も一緒になって笑った。
クラスのやつらが帰ってきたら、きっと俺ら2人にびっくりするんじゃないかな。初日に遅刻した上に入学式にもでない奴ら。
いい注目を浴びるにはちょうどいい。
……なんて
オレはひそかに心の中で笑ってた。
ーー姑息な考えは見事に吹き飛ばされるコトなど知らずに
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