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出会い③
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「え?!あの人……!山中のイヅル君じゃない?」
「え……あ!!間違いないよ!イヅル君だよ!」
「ヤバイ……!うれしいっ!私、ファンだったんだぁ!」
ガヤガヤしながら戻ってきたクラスメイトたち。
そいつらがオレらを見つけた途端、しばしのざわつきの後に続いたのは、悲鳴のような甲高い女の子の声。
え、え……なんなんだ?
ここはアイドルのコンサート会場だったか?
俺たちの回りに集まる女、女、女。その視線の先はみんなイヅルだ。
慌てる俺とは別にイヅルは一目で愛想笑いと分かるような作られた笑顔を女子たちに向けている。
何、何、何?
一体、何が起こったんだ?
あまりの混乱状態にひとまずそこから退散した。とりあえず周囲を見渡すと、所々固まる集団の中に唯一の顔なじみを見つけた。同中出身者の南だ。
「南!」
「お!日向ー!お前3組だったんだな。入学式から遅刻かよ~!何、まじで?それともわざと?お前最初から……」
「んなこといーからさ、な!アイツ!……アイツ知ってる?」
背後を振り返り、すでに半数近くの女子に囲まれたイヅルを指差すとしらねぇの?とでも言うように南が目を丸くする。
「あいつ?……あいつって……ああ、イヅルハルカ?」
「そう!イヅル!!なんだよ南、あいつの事知ってんのかよ?」
「知ってるもなにもお前……」
呆れたようにごそごそと鞄の中から雑誌をとりだす南。
取り出したのは[V GET]と表紙に書かれた一冊の雑誌で。スポーツ系の雑誌らしきそれをぺらぺらまくって、開いたページをバサッと広げる。
「だって有名人じゃん?」
「ーー!」
[失敗トスも華麗なスパイクで確実に決める天才]、なんて台詞が書かれたページに写っていたのは、今、まさにアタックを打つ男の姿で。
それは確かに、さっきまで目の前にいた長身、でちょっと怖そうな顔で、なのに笑うと爽やかなそいつ……イヅルだった。
「そのイヅルハルカがさー、この学校に入学するっつってさ、結構入学前から話題んなってたじゃん?」
「……聞いたことないわ」
「えー?俺の周りだけかなぁ?」
そんな噂、知らねぇっつーの
そのページを開いたまま絶句する。まさに、開いた口が塞がらないっていうのはこのことだ。
雑誌に写っているユニホーム姿のそいつは真剣な横顔で。まさに今アタックを打とうとしている姿はなんの加工もしてあるわけではないのに、キラキラと輝いているようにも見える。
そりゃ、騒がれるはずだ。中学時代のスーパースターだなんて。
……俺なんかが隣にいても目に入るわけがない。
「日向!」
納得しながらも少々いじけていると、突然突名前を呼ばれた。声のする方に目を向けるとイヅルとバチリと目が合った。
「え!なんだよ、日向!お前、イヅルハルカと知り合いだったの?」
小声で驚く南をよそに、イヅルは女たちの群れから抜けだして俺たちのもとへとやってきた。
「日向!便所付き合え!」
「は?女子じゃあるまいし、なんで俺が……」
「頼む……しつこくてまいってるんだ」
わからないように背後を気にしながら、明らかに困ったような顔をするイヅル。後ろには5.6人の女子が雑誌を持ってこちらを見ながら何か話している。
1人では断りにくいのか?
……もしかしたらこの男はこういうのが苦手なのだろうか?
「……わかったよ」
ため息をつきながらも、俺はイヅルに付き合って教室を抜け出した。
隣にいた南のいいなー……という意味の解らない呟き声は聞かないふりをした。
……女子かよ。
あ、てゆーか南って、中学ん時バレー部だったっけな。
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