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出会い④

「俺、ああゆうのマジで苦手」  トイレの後で、廊下を先に歩くイヅルが心底嫌そうに言った。 「何いってんだよー。すげーモテててんじゃん。周りが聞いたら殴られるぞ、お前」 「はは。そーか?」 「そーだよ。入学早々、遅刻したくせに!女子に囲まれておいて贅沢だぞ。正直、俺は殴りたい」 「それは嫌だなぁ。だって殴られたら痛いじゃん」 「……当たり前だろ?」  ははっと笑うイヅルに呆れたように脱力する。いちいち笑顔が爽やかだ。そのくせ、こいつこんな顔のくせに、ちょっと天然だったりするのかな?  ちょっとイジってやるつもりだったのに、そんな気すら失せてしまった。 「日向はさ、部活とか何やってた?」 「え、ああ……いやなんも。俺は帰宅部だったし。そうゆうお前は……『失敗トスも見事に決める天才アタッカー』、なんだろ?」  さっき見た雑誌の内容を確かめるように、すこし間をあけて言った言葉。イヅルはなんで知ってるのかと言うようにちらりと隣の俺をみて、少し沈黙してから前を向く。 「……そんなたいしたもんじゃねぇのにな」 「いや、たいしたもんなんじゃねぇの?俺はよくわかんねぇけどさ。雑誌にのってるくらいだし……」 「その雑誌のせいで知らねぇヤツにも声かけられんだよなー。俺、人見知り激しいのに」 「どこがだよ。いきなり初対面で名前聞いてきたやつ誰だよ」 「誰だっけ?」  振り返ったヤツと顔を見合わせて笑う。そのままたわいのない話が途切れることなく教室まで続いた。  ……なんだろう。どこか……不思議な気分だった。  別に特別何を話したわけでもないし、何をしたわけでもないけれど。  今さっき会ったばかりのヤツなのに。    イヅルと話しているととても心地よくて。まるで昔からの親友のように感じた。  聞けばイヅルはバレーが有名なこの学校に特待生として、同じ県内でもここから離れた町からやってきていた。 『うちじゃダメだったけど、○高にイヅルがいけば、全国間違いねぇよ』 『俺らはバレーやめるけどお前は絶対やめんなよ。俺たちの分まで○高で頑張れよ』 『□高?!ーオマエ、○高に特待生枠でいくんだろ?推薦枠はお前で決まりだっていってたぞ』  周りからの勝手な指図や、過剰な期待が重くなりすぎて、流されるままによくわからないうちに この学校の寮に入ることになっていて、入学式を前にして、急に言いなりのようになっていたいろんなことが嫌になったらしい。 「俺はバレー部があるとこなら、別にどこでもよかったんだけどな。周りが騒ぎすぎて、逆に自分だけ取り残されたみたいだったから。よくわかんねぇうちに入学式とか、寮生活とかでさ……。なんかなぁって思って。だから、今日、ちょっと反抗する意味で遅刻してみたり」  そういって笑うイヅルの言葉を聞いて、不甲斐ない理由で遅刻した自分があまりに情けなくなって、俺は軽く頭を掻いた。 「……そっか。オマエって、大変なのな」 「だろ?しかも全寮だぜ、寮。寮生活なんて自由なさそうじゃんよ……」  嫌そうに、はぁとため息つくイヅル。 「?だって俺、自宅……」 「あー……だから、バレー部だけ全寮制なんだって」  ……マジですか  オレが思ってたよりここはよっぽどバレーに力いれた高校であるらしい。  そしてそんな中でこの男は、俺が思っていたよりずっとずっと、みんなのヒーローだったんだ。

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