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友情

 イヅルはやっぱり『天才アタッカー』なんて肩書きがついているおかげか、はたまたその整ったキツめのマスクのせいか、周りのヤツラからは一目置かれていて。  担任教師ですら、イヅルにはあまり強く言えないようだった。  あの入学式の日、式にでなかった俺らはその日のオリエンテーションが終了後、やはりとゆーか案の定とゆーか、職員室まで呼びだしをくらった。  最初から説教かよーなんて、2人で笑いながら入ったそこで聞いたのは、説教ではなかった。  『ああ、君が居鶴くんか。話は聞いてるよ。本当に期待してるからね。今年はぜひうちの学校を全国までひっぱってってくれよな。 ああ……日向……くん?遅刻はいけないな。今後気をつけなさい。じゃあ、居鶴くん、期待してるからね』  我ながら言われた言葉に驚いた。  確かに俺はけして優等生タイプじゃない。成績も中の下……いや、下の上だし。髪もバレない程度に染めたし、めだつところにピアスなんか開けちゃったけど。  それでもさぁ……教師の癖に差別する?  すると、明らかに不機嫌になった俺の隣。黙っていたイヅルが口を開く。 「そんな事はどうでもいいんですけど……先生、遅刻したのは俺も一緒ですよね?なのに日向にだけに注意するのはおかしくないですか?」 「あ、いや……い、居鶴くん」  俺は怒ったように無表情でいうイヅルと、びっくりしたような担任の顔を交互に見渡す。 「話はこれで終わりなら失礼します。日向、いこーぜ」 「あ、ああ……」  正直驚いた。 「オレさ、特別扱いとか、マジ嫌いなんだ」  職員室をでて、外へとつながる廊下の壁に寄り掛かりながら、イヅルはそういって嫌そうに瞳を細めて1言。 「お茶飲む?」 「っ、ナンパかよっ。何、急に」 「いや、なんかなぁって思って。このまま教室戻る気分じゃなくなったから」 「あ、ああ。じゃ、中庭行くか」  イヅルの思考は少しズレていて、たまにわかりにくいけれど、嫌じゃない。むしろこんな完璧かと思われるようなやつにも突っ込みどころがいくつもあるのかと思うと、親しみやすかった。  俺たちは体育館に続く外廊下の自販機で缶ジュースを買って中庭のベンチに腰掛けた。  イヅルがコーラのプルを開けると、小気味のいい音と一緒に泡が吹き出す。 「わ、おっとっとっと」 「、なんだよ、それ」 「え?ヒナはやらない?うちの定番」  そういうと、イヅルは吹き出した泡を音をだしてズズッと飲みほした。 「やらない……つーか、なんなのヒナって。ヒヨコじゃあるまいし」  顔をしかめる俺に、イヅルは軽く笑って。コーラの缶を俺の手に渡してくる。 「ヒナタが長いから略しただけだけど。つか、ヒヨコって……!いいじゃん、可愛くて」  くく、と笑うイヅル。  お前が言ったんだろうかと思いながらも、やっといつものをように笑うイヅルが何故か嬉しくて、何も言わずに俺は渡されたイヅルのコーラに口をつける。 「ヒナの何?」 「ファンタ」 「コーヒーがよかったなぁ」 「自分で買えよ!つーか、ヒナタが長えって三文字じゃんよ」 「あー……そっか」  俺はどこか上の空で呟いるイヅルをじっと見ていた。  ーーなぁ、イヅル  そんなに恵まれてて、お前はナニが不満なんだよ?  いつのまにか俺の頭ん中にはイヅルへの興味がわいてきていた。目の前で催眠術でもかけるように揺らされているファンタを奪い取る。 「つか軽っ!お前、文句言いながらもすげぇ飲んでるじゃんっ」 「?コーラ、ヒナと交換したじゃん?」 「いや、あれ交換だったん?まだ一口しか飲んでねぇし」 「ふーん」 「ふーんて……」  そこから俺たちはしばらく沈黙して。  俺はイヅルと交換……したつもりはないけれど、そうなったらしいコーラをちまちまと飲んでいた。  そうしてそれが空になるころ、イヅルがふっと立ち上がった。 「行こーぜ」 「あれ、イヅル。こっちは教室じゃねぇよ」 「ん、知ってる。もう残り時間もすくねぇし、今更戻らんでもよくない?」 「まあ、そうっすね」 「なんで急に敬語」  あはは、とイヅルが笑って角を曲がっていく。するとついたところは職員駐車場だった。 「何?なんで駐車場?」 「軽く仕返し」  そうゆうとイヅルは飲み終わった缶を担任の車のボンネットの真ん中に置いた。   「え、仕返しってコレ?」 「うん。ちょっと頭きたから」  そういって、少し満足したように微笑むイヅルをみて自然と笑いがでてきた。 「お前ってほんとさ………っ、ま、まあいいや。じゃあ俺も仕返ししとこう」  笑いながら俺もイヅルの缶の隣に並べて缶を置いてみる。  いけないことをしているのは分かっている。  けれど、そんな秘密を共有する仲。  ……イヅルとオレが親友と呼べる仲になるまで、そう時間はかからなかった。

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