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出会いと別れ⑦

 タキが悪いんだ。  ……昼間、意味深なこというから。  少々焦ってどもりながらも、イヅルの方を自然に振り向く。 「あ、ああ……いや、別にそんなことねぇじゃん。あいつって誰にでもあーゆーヤツなんだろ?」 「まぁ、人懐こいし、よく笑うし、すぐにみんなとは仲良くなるけど。自分からは近づかないってか、興味持たないと食いつかないからさ。きっとヒナのことは気に入ったんだと思うけど」 「食いつくって……」  イヅルの言葉になんだか変な考えが浮き上がる。  タキはフツーの意味で、友達になりたいって意味で気になるっていったのに。  ……なに考えてるんだ、俺は。 「もしかして、もうなんか言われた?」 「え!!な、何が!?」  そのまま考え事をしていた俺に笑いながらイヅルが尋ねる。  いつの間にか片手で扉が閉められて、カチャリと鍵のかかる音がする。 「……気に入ったって?」 「……」  頭に、髪にイヅルの指が触れる。期待するように唾液を飲み込んだ。それに気づいたのかイヅルが小さく笑った。  ゆっくり撫でるように指がオレの髪をといて、近づいた顔がそのまま視界を埋め尽くす。 「ん……」  軽く。確かめるようなキスだった。  こんな入り口で…… 「な、なにすんだよ……」 「別に?なんかしたくなっただけ」  さっと唇を離すと、笑いながらイヅルが離れていく。  さっさと切り替えるイヅルと違って、俺はいまだに心臓の高鳴りが収まらない。  それにイヅルの返答もあっけなくて、なんとも言いようのないもやもやした気持ちになる。 「……お邪魔します」  一度中に入ったのに、もう一度。一言、誰に言うわけでもなく呟いてあがりこむ。  そのままベットに腰掛けるイヅルの隣に腰を下ろす。  イヅルは早速顧問に言われたDVDをセットしているとこで、メニュー画面を見ながら、俺はイヅルに声をかける。 「……なぁ」 「ん?」  リモコンをいじりながらイヅルが答える。  再生ボタンを押すとすぐに試合真っ最中の映像が流れ出した。 「お前のクラスってどう?」 「え?楽しいよ?」 「……ふーん」 「ヒナ?」  DVDに目を向けながらイヅルが話す。俺はなんだかソレが面白くなくて。隣のイヅルの肩に寄り掛かりながら、軽い相槌をうった。 「なんだよ、どうかした?」  イヅルはそんな俺を見て軽く笑って。  耳元にイヅルの笑い声が、髪にイヅルの吐息がかかる。  それがくすぐったいけど、なんだかすごく心地よく感じた。 「んー……なんか寂しいもんだなぁと思って、さ」  ぼそりと、その体制のまま思ったままのことを呟いた。 「え?何が?」 「何って……お前とクラスが離れたことがだよ」  わけがわからないとばかりに再度顔を覗き込まれて、問われたから、なんだか恥ずかしくなる。  まあ、違うクラスといっても隣だし、会おうと思えばすぐ会えるし……そうなんだけれど。  でも今までみたいに、すぐそこにいて、休み時間になったらいつも話したりとか、そんなふうにはいかないのに。  イヅルにとってはクラスが離れたとか大したことではないんだろうか。 「あー!もうイイ。おら、見るぞ!」 「あはは。ヒナ、カワイイ」 「イヅ……」  ごまかすようにイヅルの顔を見て促したのに、真剣な優しい目にさえぎられて、そのまま静かに押し倒される。  DVDの中のオーディエンスの応援がやけに部屋の中に響き渡る。 「おま……っ、いいのかよ、DVD!!」 「いいよ、別に。後で見ればいいじゃん」 「そりゃそうだけど……」 「……ほんとヒナってかわいいこと言うよな。いつも誰とでもすぐ仲良くなれちゃうくせに。だから俺はけっこう心配してんのに。なのに今はそんなこと言うしさ。……なんか振り回される感じ」 「振り回すって……」  俺の方がお前に振り回されてるのに。  首筋に感じるイヅルの息遣い。囁くような声で呟きながら、喉元まで軽く吸い付くようなキスを繰り返しされる。 「……イヅル……」 「ダメ?ヒナ……嫌?」 「…………」  目をあわせて尋ねてくるイヅルの顔が、少し困ったように笑っていて。 りりしい眉が頼りなく下がって、切れ長の瞳は俺をまっすぐ見つめてくる。 「嫌、じゃない。……俺もイヅルとこうしたかった」  たった一日の出来事なのに、なぜか俺の中では随分前のことのようで。それくらい大変なことで。  いろんなことがぐるぐる頭の中を駆け巡っていて、今はその全部を消し去りたかった。  クラスが離れたとか、タキがどうだとかって。  ……そんなことはどうでもいい。  ただ、イヅルとの関係が確かなものだって、確かめられたら安心できた。  いくつも言葉を繰り返して、何度も返される囁きに心が満たされていくのを感じた。  それが例え一時的なものだったとしても、それでもよかった。  ーーあのときの俺たちはまだ、子供だった。

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